ヤナーチェクのオペラ作品は、聞こえる音の色彩もリズムも一風二風と変わったもので、ヤナーチェクに親しむ入り口としても中々良いかなと。
時間も一時間半前後と短めですし、テキストやストーリー展開が普通のオペラとこれまた、一風二風と変わっていますので、オペラが苦手と仰る方も存外に楽しめるかも知れません(←私自身がそういう一人です)。
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わたしの個人的な意見としては、昨日の記事の末尾の方にリンクした過去の2つの弊エントリー
●来週の5月21日、レオシュ・ヤナーチェクのオペラ5作品の国内盤再発売です − マッケラス指揮ウィーン・フィルの名盤
●昨日ご紹介した日本ヤナーチェク友の会発行のオペラ対訳本のご紹介です
でご紹介して居ります、ヤナーチェクのオペラ5作品を収めたマッケラス指揮の輸入盤と日本ヤナーチェク友の会発行のオペラ対訳本を揃えて楽しまれるのが、安上がりですし、録音の質という点も、得る情報という点でも良いかと思います。
とは言え、オペラは映像で見たいという方もありましょう。
DVDでも手に入りやすく、私も最近見ました2作品、ヤナーチェク最後のオペラ作品である『死者の家から』とヤナーチェクの代表的オペラ『利口な女狐の物語』を本日は取り上げます。
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●DVD ピエール・ブレーズ指揮 歌劇『死者の家から』
まず一つ目は、『死者の家から』。これはドストエーフスキーの小説を題材にヤナーチェク自身が脚本を作成した最晩年の作品。小説の題材を活かしながらも随分変更を加えておりますし、小説とはまた違う独立した作品として楽しまれるのが良いかと思います。
女性が殆ど出てこず、主人公も居ない、オムニバス的な作品。
この作品のDVDでは、輸入盤ですがピエール・ブーレーズ指揮で独グラモフォン盤が発売されています。今現在、リンク先のAmazonの表示はリージョン1となっていると思いますが、実際はAll Region(訂正依頼済み)。日本のDVDプレイヤーで問題なく鑑賞できます。歌はちゃんとオリジナル通りのチェコ語。字幕は日本語はありませんが、英、仏、独他が選べます。
初めに感想を言ってしまうと、どうしても映像でご覧になりたいでしたら、、、というところ。
演奏や歌がどうのはなかったのですが、演出と映像の編集がちょっと私の好みと合わないので、低めの評価です。とは言え、お好きに思う方もあると思うので、見たところをご報告します。そうすれば、「sergejOがこのように今ひとつと言った時は、むしろ、自分の好み!」という判断にもなるやも。
演出は、パトリス・シェロー。舞台装置はシンプルですがなかなか美しい物です。しかし,モダン演出であることを差し引いても、今現在どんな情景なのかちょっと判らないなと思いました。妙にお洒落で収容所という雰囲気がどうも、、、ここら辺はまったく好みの問題ですね!
ドストエフスキーの原作のユーモアはあれど陰鬱な雰囲気と比べれば、このオペラ自体もっと叙情的でユーモラスと思いますが、それでもこの演出だと、私がCDを聴いた上で、この作品に対して持っていた印象よりもまた一段とユーモラスになってしまっている気がします。もう少し、シリアスなドラマだと思うのですが、、、
DVD作品だと映像の編集も結構気になる物ですが、私などは舞台全体がなるべく見える方が好み。その点では、このDVD作品のカメラが位置を頻繁に変え、バストショットやアップも多いので、舞台全体でなにが起こっているのか判り難いと感じました。
舞台と言うのは、全貌が見渡せることを念頭に演出するものと思いますが、舞台作品なのに、映像編集がドラマ・映画仕立てでどうかなと、、、
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●DVD サー・チャールズ・マッケラス指揮『利口な女狐の物語』
もう一本ご紹介するDVDは、サー・チャールズ・マッケラス指揮 パリ・シャトレ劇場ライブの『利口な女狐の物語』。これはリリースされて久しいので、ご存知の方も多いかも知れません。演奏はパリ管弦楽団。
こちらはCDで楽しまれている方にも、楽しめるDVDと思います。なにがなんでもとまでは申しませんが、舞台映像を見たいと云う方にはどうぞ。
国内盤なしの輸入盤のみ。歌はオリジナル通りチェコ語。字幕は英語と仏語が選べます。一つ残念なのは、リージョン1仕様なので、リージョン1用のDVDが必要です(NTSCです)。リンク先はAmazon.co.jpですが、今現在はAmazon.comで買われた方が全然安いです。
二点ちょっと気になるとすれば、ダンサーの質は、私も詳しくはないのですが、素人目にもちょっと軸がぶれたり、わざととも思えない不揃いも目立つので、その点はご了承を!また、舞台は子供向けなのか、低予算なのか、ちょっと学芸会じみても居ります(ここはもっと大人向けに作って欲しかったとは正直思います)。
とは言え、そもそもこのオペラはバレエを活用しているもので、そればかりはCDで楽しめないので、このDVDは重宝します。踊りの振り付け自体は創意に富んでいると感じますし、途中、女狐ビストロウシカが雄狐と夢に出会い戯れる場面の踊りは中々見事でした。
マッケラス指揮の音楽は表現に富みますし、歌手も特に森番役(人間ではもっとも頻繁に出てくる重要な役)トーマス・アレン Thomas Allen が良かったなと。
ストーリーは、なんと言ったらいいのでしょうか、、、単純に人と狐の童話とも取れません。これはぜひお確かめくださいと言う他ありません。
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今一度。
●昨日ご紹介した日本ヤナーチェク友の会発行のオペラ対訳本のご紹介です
でご紹介した。対訳本はその訳のみならず、作品成立史なども充実していて面白いものでした。『利口な女狐の物語』の原作が、挿絵童話を連載すると発表してしまった一新聞のあたふたから出来上がった話 − そこで、たまたま面白い挿絵を半ば趣味で描いていたイラストレーターを見つけ出して、これを基に小説・劇作家に半ば無理矢理に物語を作らせた − なども興味深いものでした。
作品に対する親近感も増すと思いますので、ほんとうにお薦めです。
ではまた次回!