本日は、フランツ・リスト Franz Liszt(1811-1886)の誕生日。
リストはピアノ・リサイタルのアンコール小品などで、大変おなじみな存在ながらも、ではその全体像がなんとなくでも知られているか・・・と言うと、結構、近くて遠い存在かなと思います。
そもそも、出自が今ひとつ不明で、自らの宣伝のために経歴の粉飾も多く、その点では謎の人物。活躍の場は多彩で、フランスではショパンと、ドイツではシューマン、メンデルスゾーン、ワーグナーと交流。各地で、ピアノの華麗な技を見せ、育てたピアノの弟子も多数なら、浮き名を流すことも多々。故郷(?)ハンガリーでは当然、名士でありますが、リストが一躍広めたハンガリー音楽は、後のバルトークらの研究で、ハンガリーの民族音楽ではなく、当時のロマ族の芸人音楽 − 所謂ジプシー音楽 − であったと反駁されて・・・(『バルトーク音楽論集』ご参照)
この様に怪しさと妖しさがないまぜの人物ですが、ピアノ音楽の発展、ワーグナーらの新音楽の興隆に欠かせない役割を果たしたのは確かで、再評価がいまだ進行中、、、というところでしょうか。
弊ブログでは、いかにも弊ブログらしく、本日はそんなリストにちょっと親しくなれるおすすめ書籍をご紹介しようと思います。ちなみに上の映像は、リストによるワーグナー追悼曲の愛好家による映像です。
リスト おすすめ伝記『作曲家◎人と作品 リスト』
おすすめ名著の一冊目は、今現在一番手に入りやすい福田 弥著『作曲家◎人と作品 リスト』(音楽之友社)。いつもおすすめしている、音楽之友社の作曲家◎人と作品シリーズの一冊です。伝記・主要作品紹介・作品目録がコンパクトに収まって安価なすぐれものの一冊。リストへの興味を増すとともに、今後、どの曲を聴いていくか検討するに大変役立ちます。
伝記部分では、最新の研究成果を踏まえて、リストの経歴の粉飾部分を再検討。無論、それだけでなく、また、もっと重要なことは、ヴィルトゥオーゾ・ピアニスト兼作曲家という一般的認識に一石を投じようと、管弦楽作品・宗教音楽作品の紹介にも勤めていること。これにはわたくしも目を開かせられました。
リストのピアニスト時代は比較的よく知られているものの、ヴァイマルの宮廷楽長時代以降の詳細は、一般にはあまり知られていないだろう。とくに宗教音楽に傾倒したローマ時代(1860年代)以降は軽視されがちであるが、本書では、むしろ彼の宗教観・音楽感がよく表れている時代と位置づけ、この時代にもかなりのページを割いた。 著者あとがきから p.235
巻末の作品目録は、ジャンルごとの仕分け。 作品のタイトルの原題が出ていないことが、唯一惜しいところでしょうか。
作曲家◎人と作品シリーズのこの作品目録は、原題が出ている巻と出ていない巻がありますが、原題はCDや楽譜を探す方の便宜も考えて、すべて載せていただけると有り難いように思います(ページ数が嵩んだり、中々難しいことかも知れませんが・・・)。
リスト おすすめ名著 『パリのヴィルトゥオーゾたち ショパンとリストの時代』&『アラウとの対話』
次の二冊は、その一般的認識に則したピアニストとしてのリストについてのもの。録音を探すと、やはり現在はまだまだピアノ曲の名録音の方が多い状態。いろいろ聴くにあたって、ピアニストとしてのリストをもっと知りたい、ピアノ曲から入ろう、という方も多いと存じます。
ヴィルヘルム・フォン・レンツ著『パリのヴィルトゥオーゾたち ショパンとリストの時代』は、ロシアの外交使節としてパリに訪れ、実際にリストやショパンに接し、ピアノの指導も仰いだ人物による書籍。
著者が直接面識を持ったという点でも貴重なものですし、また、当時のサロン音楽とはどういったものかを垣間みさせる点でも、興味深い書籍。
リンク先アマゾンの頁にあるカスタマーレビューが、まったくその通りなのですが、全体は100ページ強で分量的に今ひとつ、付録の別冊の注釈を読み解かなければならない、それほど専門的話に立ち行かない・・・という三点の欠点あり。とは言え、当事者のこういった記録で、手に入りやすい本は珍しいので、この場でちょこっとおすすめする次第であります。
最後の一冊は、往年の名ピアニスト クラウディオ・アラウのインタビュー集 ジョーゼフ・ホロヴィッツ篇『アラウとの対話』。こちらは、リストに関する著作ではなく、アラウの自伝的内容、音楽感や作品への思いを扱ったインタビュー。
アラウが師事したマルティン・クラウゼはリストに教わったことがありますから、アラウはいわばリストの孫弟子。勿論、そういう立場のピアニストは他にもたくさんいて、なんら特別な何かを保証しませんが、アラウ自身
私にしたところが、リストを、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、あるいはシューベルトと同等の高みにおくつもりはありません。しかし、ウェーバー、ショパン、シューマン、ブラームスとは並べますね。p.170
と発言しているように、リストへの愛着は確かなもの。この著作の中でも特別にリストを取り扱った一章を設けています。それはたった20ページほどのものですが、「リストを聴いてみたい!」と思わせる独特の魅力があるのでは?
自らのリスト演奏の思い出とさまざまな曲のtipsを簡単に語った後、ソナタ ロ短調とバラード ロ短調 を取り上げ、楽譜を交えての談義が続きます。ソナタ ロ短調は、ゲーテのファウストを、バラード ロ短調は、ギリシア神話のヘーローとレアンドロスを題材としているとして 、「ここの部分は、誰それがどうしている情景なのだ」とアラウが自分の考えを細かく描写。演奏上の技術的問題にも勿論触れるのですが、その細かな詩的・文学的イメージが大変面白いものでした。
これらの曲を聴いていて全体像がつかみがたい・・・と思っている場合、上のアラウの話を聞くと、すっかりそういうイメージで曲が聴けてしまうやも。
リストの話からはズレますが、この書籍は、アラウに興味のある方にも、アラウをこれから聴こうという方にも、大変おすすめな書籍。表紙の写真を見ると内容が固そうなのですが、実は読みやすくて、面白いので一気に読めます。編者ホロヴィッツはダニエル・バレンボイムやコリン・デイヴィスにもインタビュー。巻末に、編者自らのアラウの録音評があって、これが詳細な上に、マイナー録音も押さえていて、さすが!な内容です。
・・・かくなる次第で本日は、リストに関する三冊の本を簡単にご紹介でした。
では!
p.s.:『ファウスト』の新訳なら池内紀訳・古い訳なら相良 守峯訳が人気どころでしょうか?たくさんあって、選ぶのは困難ですが、、、『ヘーローとレアンドロス』は、おすすめのギリシャ神話の書籍にはこの物語がなく、web上にあらすじは見つけられると思います。
ショパンについては、幾つかいい書籍がありますが、実用も兼ねて(って、僕はとてもそこまでいきませんけれど)ならば、「ショパンのピアニズム」(加藤一郎、音楽之友社)は分かり易くていい本でした・・・決して薄くはありませんけど。
リストのCDおっしゃる通りで、有名どころがもう少し録音しないと目に留まらない・・・アーノンクールが録音したら、結構はまるような気が!(先日、アーノンクールのハイドンのミサ曲集聴いて、ほんとに良かったですっ)
コメントでご指摘いただいたこと深謝申し上げます。