前回、前々回と続けて居りますベルリオーズの話題ですが、本日三回目でひとまず区切りを打ちます。ベルリオーズを取り上げたのは今回が初めてなので、今更ながらも躊躇せず19世紀標題音楽の金字塔 幻想交響曲 Op.14で、おすすめの録音を取り上げたいと思います。
まだお聞きになったことがないという方には、ぜひ!という曲。ベルリオーズの特色が詰まっていて、全曲通して面白い曲ですし、これがまだベートーヴェンが存命中だった1830年に初演されていると考えると、やはり、特別の才能の持ち主だと、、、こういった説明は既にお聞き及びのことでしょう。
昨日引用したロベルト・シューマンによる描写を今一度挙げますと、
ほかの楽章も、一々第一楽章と同じように解剖していたら、あまり長くなるし、またむだだろう。第二楽章はそこに描かれる舞踊と同様に、千変万化の変化ぶりを発揮する。第三楽章は実に美しいもので、縹渺たる半月のように浮き沈みする。最後の二楽章は全然中心を持たず、ひたすら終局へともがく。しかし、どんな時でも、極度な無形式のかたわらに精神的連関が認められるので、ジャン・パウルのことを− ひねくれた言い草だが − 「下手な議論家で、偉大な哲人」とよんだ、誰かの言葉を思わせるものがある。
まったくその通り!と膝を打つ思いです。
ベルリオーズ 幻想交響曲 Op.14のおすすめ名盤
幻想交響曲のおすすめについて、判り易くは、所謂“古楽”の演奏か、現代オーケストラか、第二楽章にコルネットを入れるか入れないか、で大きく分けられますが。。。
1) なじみの現代オーケストラで、コルネット入らずの幻想交響曲
まず一つ目は、特に日本で長らく一番人気の
シャルル・ミュンシュ指揮/パリ管 ベルリオーズ:幻想交響曲。1967年、ミュンシュ最晩年の録音。オーケストラはこの頃、パリのコンセルヴァトアールのオーケストラなどを基盤に国歌の肝いりで、結成されたパリ管弦楽団。
確かに、色彩が鮮やかで、合奏が揃う揃わないに関して好き嫌いが出る有名版ですが、CDで聴く限りは、伸びやかなリズム、迫力のある演奏で好きな盤です。崩れるほどの輝かしさというと妙ですが、やはり、こういう録音は他に求め難いもの。
とは言え、ミュンシュばかり押していれば良いとも思えず、正直それはちょっと定評に安住し過ぎかな、、、と。
この曲を味わうに良い演奏は沢山有って、同じ頃の往年の名指揮者による録音と言えば、作曲家兼指揮者のイーゴリ・マルケヴィチ指揮 ラムルー管演奏の録音。
表現主義的というのでしょうか、音楽はまさに物語を刻んで進むようで、畳み掛けるような盛り上がりも素晴らしい録音。この録音がなにかに劣るかとは到底思えません。
比較的、最近のものでも、現役のフランス指揮者 プラッソンがトゥールーズのオーケストラを弾いた録音など、丁寧な演奏で、十分推薦に値すると思います。
これは輸入盤しかないのですが、リンク先をご覧の通り、大変安価。しかも、二枚組で、『イタリアのハロルド』全曲に、『ウェイヴァリー』・『ローマの謝肉祭』・『海賊』・『ベンヴェヌート・チェッリーニ』の五つの序曲も収録。
ひとまず、ベルリオーズを楽しんでみたいとなると、なかなかリーゾナブルなものと思います。
以上、三つとも、こちらは、現代オーケストラで、コルネット入らず。
では、そのコルネットが入るとどうなるか、、、とこれはどうにも口にするのが難しいのですが、現代オーケストラで、コルネット入りから挙げますと、、、
2) 現代オーケストラで、コルネット入りの幻想交響曲
私が知っているものでは二種類あって、一つはマルティノン指揮 フランス国立放送管弦楽団の録音。これは二枚組で、幻想交響曲の続編《レリオ》も収録。
レリオは独白と歌曲のまじったけったいな曲で、幻想交響曲という失恋と狂気の悪夢から回復した「その後」のストーリーを描きます。過去の自分の作品をうまくつなぎあわせて作ったものですが、これが結構かっこ良くて、一聴をおすすめしたいもの。
感銘深い曲とは言えないかもしれませんが、当時のスタイルが決して我々が想像するように決まりきったものではなかったと思わせます。写真のリンク先は、輸入盤で残念ながら歌詞カードがついておらず。
これには国内盤があるのですが、
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005LA0G/look4wieckcom-22/ref=nosim/
長らく在庫切れ状態です。
もう一つの、コルネット入りながら、なじみの演奏スタイルは、昨日ご紹介した24枚組ベルリオーズ録音集を出しているコリン・デイヴィス指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウの録音(録音当時はアムステルダム・コンセルトヘボウ。24枚組Boxに収録されているものと同一)。
マルティノンがのびやかとすれば、デイヴィスは丁寧。
第二楽章のコルネットに関して、扱いが大きく違っていて、マルティノンではかなり大きく主役の様に入っており、デイヴィスでは大人しく裏から聞こえて来るかのように優しく入り、後半で段々大きくオーケストラとの協奏曲(?)となっていきます。
3)“古楽”系の幻想交響曲の録音
こちらの部類もいろいろ増えましたが、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルを率いるミンコフスキによる比較的新しい録音と、大御所ガーディナーの録音で代表させたいと思います。細かいところは、両者異なりますし、“古楽”だからと言ってしまうのは間違いがあると思いますが、爽やかな響きと、音の表現のユニークさはやはり関心が向かうところでしょう。
まずはマルク・ミンコフスキ指揮録音について、参りましょう。演奏はレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルとマーラー室内管弦楽団の共同。“古楽”オーケストラと現代オーケストラを混ぜたのは、ミンコフスキのアイディアだそうです。カップリングには、幻想交響曲のテーマの引用もあるカンタータの《ヘルミーネ》を収録。
ミンコフスキは、第二楽章にコルネットが入らずの演奏です。フランスのAmazonでたったの30秒ながら各楽章のサンプルが聞けますが、
http://www.amazon.fr/Berlioz-Symphonie-Fantastique-Herminie/dp/B00008NR7C/
判り易いところでは、第二楽章のワルツの扱いなども、実に彼ららしい取り扱い。こういうやり方は、ミンコフスキらしいと思いますが如何でしょう。
国内盤がいま無いようで、輸入盤のみ。目立たないのですが、おすすめです。
さて、お次のエリオット・ガーディナー指揮。こちらは、コルネット入りです。
CDの国内盤ですと、ベルリオーズの荘厳ミサとのカップリング二枚組が現在手に入り易い様子。オーケストラは、Orchestre Revolutionnaire et Romantique 。ガーディナーとのベルリオーズの録音はこの楽団の名高い業績の筆頭に挙げられるものでしょう。ご興味が有れば、英語になりますが公式websiteをご覧下さい。
http://www.monteverdi.co.uk/about_us/orr.cfm
しかし、この録音嬉しいことにDVDが出て居りますので、そちらをご覧戴くのも一興かと存じます。
画面の手助けで、いままで通り過ぎていた事柄に、注意が向かうものでしょうし、楽器も異なれば、弾き方も諸々異なり、これらは見ていると、私のような素人にも様々に感じ取れるものがあって面白いものです。
国内盤DVDは、幻想交響曲のみ単品で購入可能。2006年に再発されて随分お求め易くなりました(CDとそっくりなデザインでちょっとややこしいですが・・・)。
字幕など要らない!という方には、ほぼ同じ価格の輸入盤もおすすめです。
この輸入盤DVDには、 幻想交響曲&荘厳ミサの二曲を収録してあるのが、お得。
今現在、リンク先のAmazon頁の表記は、リージョン1となっておりますが、実際には、レーベルサイトの頁をご覧の通り、
http://www.deccaclassics.com/music/DVD/0743212.html
フリー・リージョン仕様。日本のDVDプレイヤーで見てもなんら支障がありません。
古楽というものを一度視覚でじっくり捉えておくと、あとあとさまざまな類推がきくものかも知れません。
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なんだかいろいろとあって、ややこしくなって参りましたが、この曲を楽しむという目的には、どれも存分に適うものと存じます。収録曲、価格、簡単に挙げました演奏傾向に沿って、後は「えいやっ!」とお選び頂ければ。
それよりもなによりも拙いご紹介にお目を通していただいたこと、御礼申し上げる次第です。
では、また次回!