先日の2月23日は、ジョージ・フリデリック・ヘンデル(ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル 1685-1759)の誕生日でした。
生没年をご覧の通り、今年2009年は没後250年にあたり、さまざま新録音もあれば、旧録音の発掘などもある様子。
昨年のこの機会は、音楽之友社から発行された『作曲家◎人と作品 ヘンデル』と、世俗的オラトリオの代表的と申しますか、比較的誰にでも聴き易い《セメレ》と《ヘラクレス》のCDをご紹介致しました。
◎2008年02月23日:本日2月23日はヘンデル(1685-1759)の誕生日です − 名盤・名著のご紹介など!
端的に言うと、「ガーディナーのCDは、英語の歌詞が聞き取りやすくて、好きだ!」という非音楽的(?)おすすめ・・・
さて、本年はなにをご紹介しようかと思いますが、昨年、オペラを!というコメントを頂いたので、オペラのDVDを幾つか参ります。
が!!本日はその前に弊ブログらしく、ヘンデルを知るための書籍をご紹介。
オペラのDVD紹介前に触れるべきヘンデルの本と言えば、近年やっと翻訳が出たウィントン・ディーン 著『ヘンデル オペラ・セリアの世界』であるべきですが、それは次回に持ち越して、今回は今一度伝記について。
ヘンデルおすすめ伝記 その1 三澤 寿喜 著『作曲家◎人と作品 ヘンデル』
昨年ご紹介致しましたので、繰り返しになりますが、最初にヘンデルの伝記や主要作品をつかむなら、三澤 寿喜 著『作曲家◎人と作品 ヘンデル』が今現在は一番よしとなるでしょう(冒頭の写真が表紙)。
作曲家◎人と作品シリーズの構成は、伝記と主要作品の詳細な案内を大きな二本柱として、末尾に参考書籍や作品目録、年表をつけたもの。二百数十頁の分量によく纏められて居ります。
伝記部分。ヘンデルはドイツのハレに生まれ、イタリアに留学、欧州の王宮に抱えられていましたが、ハノーファー選定公がイギリス王に迎えられて、ヘンデルも渡英。こういう関係なども、いかに欧州が昔から国同士の関係が深かったかいろいろ考えさせられます(勿論、もっと以前からそうなのですが・・・)。興行師としてオペラ座の運営にもかかわるビジネスマンであったことにもきちっと触れてあって、その客層の描写から、市民社会が進み、資本主義が勃興しつつあったイギリスの様子もうかがえて面白い所。
主要作品紹介は、さまざまな曲のジャンルをまんべんなく紹介して偏りがないのが、作曲家◎人と作品シリーズの特徴ですが、著者 三澤 寿喜氏の紹介が熱いです。「こりゃ、聞いてみたい!」という気になりますから、良い紹介と思います。
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ヘンデルおすすめ伝記 その2 クリストファー・ホグウッド著『ヘンデル』
指揮者・チェンバロ奏者・研究家のクリストファー・ホグウッド著『ヘンデル』も最初の一冊にうってつけ。これも伝記と主要作品を紹介するもので、原書は1985年刊行、邦訳は1998年に出ました。
興味を持つ・好きになるという点では、こちらの方が良いかなとも思うほどですが、長らく在庫無し!中古も高いです。わたしも昔図書館で読んだっきりで、買わずじまいで手に入らなくなって、いま中身を確かめようにもできない状態。
英書Christopher Hogwood 著『Handel』ならば簡単に手に入るので、今度そちらで読んでみようと思います。
全体的な印象はいまだ鮮明なので、ここに記しますと、頁も300頁なのでかなり余裕がある書き方で、詳細にもわけいっております。ただし、ホグウッド氏の文章・トピックの運びがまた面白くて、ちょっとびっくり。読んでいて迷う事もないです。
主要作品の紹介も良い記述。一般書の体裁を保つため、音楽の専門知識がないと判らない内容は避けていますが、それでも音楽的にその価値を伝えます。これは一読いただかないとなんとも伝えかねますが、全体的にさすが名演奏家だなという視点が幾つもあり。
余談ながら、こういう書籍が、手に入らないというのは常々いかがなものかと思っております。音楽書というと、第一刷以降増刷無しというものが多いもの。部数が限られていて、古書街にもなかなか廻らない。ネット上では、たまに古書があっても、馬鹿げた価格つり上げ(いろいろご意見あると思いますが、中学生以来、20年強神田の古本屋を歩いて居りますが、ネット専門の中古価格には極めて違和感があります)。
そもそも、日本では音楽書があまり読まれないとはよく聞きますが、その割には、「クラシック音楽で頭がよくなる」ですとか、「名曲○百選」ですとか、音楽感想家の妄想的散文集は売れてしまう。
しかし、英書であれば、音楽の一般書でも内容がしっかりした伝記、もっと専門的な書籍も新刊が第一刷後、長々と売られていますし、古書も安価に手に入り易い。
英書のマーケットの広さなり、その他にももろもろ出版事情は異なるとも思いますが、聴衆側がどう音楽を受け取るか、どう考えるかの差も大きいと思います。
小生のところのようなちゃらいブログで、なるべく書籍を紹介するのは、「こんなちゃらそうな人もこんなの読んでいるんだ・・・」と知れれば、少しは「こいつが読めるなら、自分にはそんな本なんて読めるに決まってる!」と気軽に手に取られる方があるかな・・・と。そんな希望がございます。
実際、こういったブログにしては、書籍を売っている方だと感じますし、洋書もお探しになってご購入くださる方がときどきいらっしゃって、それも嬉しく感じる次第。話がすっかりそれましたが、この場を借りて御礼申し上げます。
ヘンデルの時代を知るためのおすすめ書籍
さて、ヘンデルが渡英した前後は、イギリス社会が大きく変わった時期。世界史に興味が強い方など、付帯知識が多いので、さまざまご理解が深いと推察致します。受験で日本史に絞った方など、この時期の事柄について、音楽以外にもいろいろとお読みになると、ヘンデルの伝記を読んでも、想像する事が広がるかと。
書籍は沢山ありますので、あくまで私が読んだ所から、読み易い者で極簡単に。それぞれ参考文献の記述がありますから、自然読み物は広がって行くと思います。
欧州の中では、はやくになしとげた革命については、友清 理士 著『イギリス革命史(上)――オランダ戦争とオレンジ公ウイリアム』(下巻は、『イギリス革命史 下 - 大同盟戦争と名誉革命』)
教科書ですと、この経緯について、国内事象の説明で終わるところですが、国際関係の記述があるのが面白い所。
ヘンデルを聞いていた当時の客層の雰囲気が判るものですが、手に入り易く安価なところでは例えば、小林 章夫 著『コーヒー・ハウス―18世紀ロンドン、都市の生活史 (講談社学術文庫)』など。
ホガースの絵をご存知の方なら、あそこに描かれた情景を語っていると思えば、想像しやすいと思います。
もう少し文学よりで似た様なものですと、18世紀を扱って面白い・読み易いでは、夏目 漱石 著『文学評論 上 (岩波文庫)』(下巻 『文学評論
<上>
下 (岩波文庫)』)がいまだ一番おすすめではないでしょうか。ところどころ落語並みに笑わせる希有の文学案内。
文学評論と題しながら、中身は18世紀イギリス文学史。特にジャーナリストのアディソンとスティールや『ガリバー旅行記』のジョナサン・スウィフトの記述のあたりで、クラブなり、コーヒー・ハウスなりで、文人、政治家、商売人等々が混じり合った文化があったこと、その様子の一端がわかります。スウィフトの逸話の偏屈ぶりは、読んでいて吹き出してしまう類い。偏屈を信条とされる方も、スウィフトには到底適わないと思うことでしょう。
次回の内容にかかわることでもありますが、ヘンデルのオペラの台本そのものだけを取り出した時の質の悪さが、この時代のハイ・アートの全体の水準ではないことは、文学に多少精通していないと判り難いかも知れません。単純には、16世紀後半から17世紀に掛けて、シェイクスピアが居たのだから、と考えてみればよいことでしょう。
ヘンデルの台本選択眼が悪いかどうかは謎ながら、そもそも当時のオペラの台本そのものが質が悪く、オペラ自体もなんといいますか“まがいもの”なエンターテインメントであったようです。
実際、上述のアディソンとスティールも、当時イギリスに輸入が進んだイタリアのオペラについて、異を唱えている一文を書いています。
それは、1711年3月21日のThe Italian Operaと題された記事で、Richard Steele&Joseph Addison『Selections from the Tatler and the Spectator (Penguin Classics)』のp.315〜318に収録。
イタリア歌詞で誰も中身がわかってない、あれが悲劇というならその質はなんだ?音楽は大変心地よいエンターテインメントだけれども、あれが耳の大半を占めるとしたらどうだろう?我々の判断力を低下させるとしたらどうだろう?ましてや、人性を向上させる傾向を持つ芸術を追いやるとしたら、、、とそんな苦言です。
こちらの著作、新聞の先祖たるTatlerとSpectatorに載った文章の選集で、話題も多岐に及びますから、当時の文化風情を知らせる、当時の言葉による一冊として、大変おすすめです。解説書や歴史書では、やっぱり得難い、雰囲気というものは、やはり当時のものに直接当たらないといかんともし難いと思われます。
では!