2009年03月01日

ヘンデルのおすすめ書籍 ウィントン・ディーン著『ヘンデル オペラ・セリアの世界』− ヘンデル没後250年 その2

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ウィントン・ディーン著『ヘンデル オペラ・セリアの世界』Amazonの商品頁を開く先日の2月23日は、ジョージ・フリデリック・ヘンデル(ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル 1685-1759)の誕生日でした。

今回はおすすめ書籍ご紹介の二回目。

ウィントン・ディーン著『ヘンデル オペラ・セリアの世界』を取り上げます!

左の表紙を見るからに、またタイトルを見るからに、固そうで、「専門書か・・・」と躊躇される方もあるやも知れませんが、中身はそんなことはありません!意外なほど、

大変読み易く・刺激的

です。これは声を大にして申し上げたいと思います。表紙だけが固過ぎます!!

ヘンデルおすすめ書籍:ウィントン・ディーン著『ヘンデル オペラ・セリアの世界』ご紹介

さて、本書はイギリス出身のウィントン・ディーン Winton Deanさんという研究家の1969年の著作。漸く邦訳がでたのが2005年。冒頭の日本語版への序文にありますが、初版以来40年経ち、その後の研究で明らかになった部分などは、ディーン氏自ら訂正した上での日本語版。この辺り、ちょっとお得と言えましょう。

本書の目的について、序文に著者が書いていらっしゃいますが、

オペラ作曲家としてのヘンデルに対しては、いまだに挑戦的な疑問詞が投げかけられている。この疑問詞を取り除き、ヘンデルの生涯でのオペラの局面は、その後に続くオラトリオの局面に対して決定的に重要であり、彼の作品がオペラ愛好家達に喜びを与える共有財産であることをはっきり示すのが私の目的である。

というもの。

ヘンデルのオペラ、また、後の劇的オラトリオなどを聞いていると、「なんでこう一貫したストーリーが弱くて、ぶつぎれっぽいのだ」やら、「合唱が少ないのだ」やら、なんだかんだと思わず思ってしまうもの。それがヘンデルに責があると考えたら、誤解なのです!と著者の考える“正しい楽しみ方”に道案内する書であります。

章ごとに簡単に内容をご紹介しましょう。

  • ウィントン・ディーン著『ヘンデル オペラ・セリアの世界』の章立て
  • 日本語版への序文
  • 序文
  • 第1章 オペラ・セリアの慣習...p.3
    ヘンデルの時代の一般的なオペラの慣習を解説します。今現在のオペラと同じ形式とは全然違うその姿が浮かびます。イギリスにおいても、言語はイタリア語で歌われ、英語対訳付きパンフレットが配られた事。欧州大陸ほどではないけれども、カストラートが派手な衣装で参加するスペクタクルであったこと。お客さんは、食べて呑んで話しての最中に、歌がはじまれば、舞台を振り向くといった楽しみ方であったこと(だから、ひとときも注意を話せない一貫性のある芝居など必要とされていなかった)などなど。さまざま今のオペラと違う当時の風景が描写されます。
  • 第2章 ヘンデルの解決...p.31
    第一章で説明した当時の一般的なオペラの姿に対して、ヘンデルが成した革新的アイディアの概要説明。それは芝居と音楽を融合したことにありますが、ヘンデルのオペラを見るにあたって、それが舞台芸術であったことを顧慮せよと指摘します。当時の舞台演出をよく勘案しないで、歌と伴奏だけ取り出して考えてもよく判らないことがあるという指摘がユニークです。
  • 第3章 ヘンデルのオペラ作曲家としての経歴...p.45
    1704〜1741の間(オラトリオの倍ほどの年数)、オペラを作曲し続けたヘンデルの作品を鳥瞰します。現存するヘンデルのオペラが40種ありますが、その中で、著者ウィントン・ディーンが重要と考える作品が判り、これからいろいろ聞いて行こうと云う方には良い道案内になります。
  • 第4章 台本...p.67
    第5章 英雄オペラ...p.95
    第6章 魔法オペラ...p.125
    第7章 反英雄オペラ...p.155
    この四つの章で、ヘンデルのオペラを台本の面から検討し、ヘンデルの時代の一般的イタリア・オペラとどう異なるかを見るとともに、ヘンデルのオペラを大きく、《英雄オペラ》・《魔法オペラ》・《反英雄オペラ》と三つに大別して、それぞれの特徴的スタイルを解説します。最後の《反英雄オペラ》は著者も仮においた名目で、ヘンデルのオペラには、例えば、一見英雄譚に見えても、コメディや皮肉、コケティッシュな要素etcさまざまな要素が含まれたものがあるといった説明。
  • 第8章 劇場における職人芸...p.191
    ヘンデルのオペラを舞台装置や仕様楽器の面から、分析します。舞台装置のスペクタクルも劇の面白さを保つ要素として、音楽とも深く関係があったと考える著者。この理解がないと、ヘンデルのオペラの面白さが判らないからと考えての章であります。仕様楽器については、当時の楽器の持つ意味あい・楽器選択の斬新さなどを語ります。
  • 第9章 アリアとレチタティーヴォ...p.239
    第10章 オーケストレーション...p.285

    この二章だけが、本書である程度の音楽的知識を必要とするところといってしまって良いでしょう。タイトルそのままに、アリアとレチタティーヴォそしてオーケストレーションについて、ヘンデルのオペラにおける特徴的な面を、楽譜を提示しながら説明致します。
  • 第11章 現代におけるヘンデルのオペラ...p.311
    1920年代にはじまるドイツのヘンデル・ルネサンスがヘンデルのオリジナルとは言い難い内容であったこと、また今現在も、舞台装置や演出その他を考慮して、常に理想的な上演がなされているとは言い難い旨の指摘。著者の考えは、「もし演出家が、ヘンデルのオペラを上演した劇場の条件についてよく知っていれば、ヘンデルのやり方で、現代の聴衆の心を捕えることができる、ということをすでに多くの上演が証明している。」というものです。
  • 訳者あとがき
  • ディスコグラフィー
    日本版に特別に付されたました。ヘンデルのオペラのCDの目録。DVDについては、2005年以降に幾らか増えて居りますので、本書の記載DVD点数は少ないです。
  • ヘンデル オペラ作品一覧 / 年譜 /索引

以上の如くであります。

著者も部分的には、ヘンデルも時代の制約をまぬがれていないことには同意を示し、例えば不出来な台本も受け入れたことなど、「答えはまったく不明である」としているものの、舞台作品全体としてきちんと考慮すれば、現代人にも楽しめるオペラであるとしていることが大変印象的でした。読後、ヘンデルのオペラになんとなく親しみを感じ、DVDがでるのを期待してしまうようになるのでは?

Winton Dean『Handel's Operas, 1726-1741』のAmazonの商品頁を開くなお、ウィントン・ディーン氏が重要と考える舞台装置その他の演出、配役、またイタリア語と英語の歌詞テキスト対訳表などをまとめた浩瀚な著作が、英書で出て居ります。私も中身を見た事はありませんが、熱心に聞かれたい方には、実り多い読書となることと存じます。

Winton Dean著『Handel's Operas, 1704-1726』

Winton Dean著『Handel's Operas, 1726-1741』

の二巻本、英米のAmazonのレビューなど見ると、大変評価も高くなっております。

*****

DVD映画『カストラート』のAmazonの商品頁を開く本書の理解を助ける副読本の類いもご紹介しますと・・・

当時のイタリア オペラがどういったものだったかを知る格好の映画として、音楽研究家の岡田暁生氏が推薦するDVD映画 ジェラール・コルビオ監督『カストラート』。今現在、在庫切れで中古も高いので、レンタルなどでどうぞ。(岡田暁生氏の著作については、こちらLook4Wieck.comご参照ください)。
この映画の主人公ファリネッリは、まさにヘンデル時代のオペラの名カストラート。ロンドンにも招かれた事があり、ヘンデルのかかわったオペラ座ではありませんが、ライバルである貴族オペラ座に招かれたスター歌手でした。

ウィントン・ディーンさんの著書に、ざっくりと言えば、ヘンデルのオペラは結構色恋沙汰のコケティッシュな話を含んでいて、オラトリオはもっと道徳的な内容ですが、オペラが貴族向けで、オラトリオは中産階級向けであったことが指摘されており納得でした。

エデュアルト・フックス 著『風俗の歴史<1> ルネッサンスの肉体感』のAmazonの商品頁を開く貴族のモラルと中産階級のモラルについては、エデュアルト・フックス 著『風俗の歴史<1> ルネッサンスの肉体感』など面白い読み物でしょう。

なにをしても血筋で弁別化可能な貴族はモラルを破ることがある程度たやすく、いつ階級が落ちるかも知れない中産階級こそ下の階層との弁別化を図る為に、厳しいモラルのルールを必要とした・・・ということなど、ひたすら並べ立てられる豊富な資料から、伺い知る事ができます。

全9巻で、図版も多数。中世から19世紀まで扱っておりますので、ヘンデルが居た17〜18世紀に限らず、さまざまな時代の西洋音楽を聴く際に、おのおの時代の雰囲気をつかむにも絶好の著と思います。例えば、中世のモテットの時に淫猥なパロディ歌詞がどういう場で歌われたのか・・・本書があれば想像もいろいろ働きます。

『風俗の歴史<2> ルネッサンスの恋愛と結婚』

『風俗の歴史<3> ルネッサンスの社会風俗』

『風俗の歴史<4> 新しいアダムとイブ』

『風俗の歴史<5> 危険な関係』

『風俗の歴史<6> 十八世紀の女』

『風俗の歴史<7> 市民階級の自由宣言』

『風俗の歴史<8> 性の商品化時代』

『風俗の歴史<9> ルネッサンスの肉体感』

では!

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posted by sergejO at 03:04 | Comment(0) | TrackBack(1) | 作曲家の誕生日です!
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