昨日はモーリス・ラヴェル(Maurice Ravel, 1875-1937)の誕生日にちなんで、おすすめ書籍をご紹介しましたので、本日は、ラヴェルの名盤を一つ。
昨年のこの機会は、晩年のラヴェル名品、ヴァイオリン・ソナタをご紹介しましたが、本年はラヴェルのピアノ協奏曲をご紹介しようと思います。
ラヴェルの二つのピアノ協奏曲:左手のための協奏曲とト短調
ラヴェルのピアノ協奏曲はご承知の通り二曲あって、哲学者ウィトゲンシュタインの兄 パウル・ウィトゲンシュタインのために作曲した左手のための協奏曲の方が、両手のピアノ協奏曲 ト短調より、むしろ著名かも知れません。
この二曲の作曲は相前後し、左手のための協奏曲が1929〜1930年、ピアノ協奏曲 ト短調が1929〜1931年。
左手の協奏曲の方に複雑な楽しさがあると言う声が確かにありますが、この二曲は曲調も随分違ったものですし、どっちがどっちに優劣云々でなく、双方楽しめる名曲と思います。
私自身、より前衛的(?)と言いますか不思議な響きが多くても、映画音楽のようなストーリー性や叙情性も感じる左手のための協奏曲を聴きたい時もあれば、クラシックではまれに見る判り易さ、快活さ、華やかさ、そしてユーモアをもって駆け抜けるト短調の協奏曲を好む時もどちらもあり。
この二つについては、ラヴェル自身の面白い言葉がありました。前回、ご紹介した著作に見つけたものですが、
二つの協奏曲を同時に手がけることは興味深い経験でした。私自身が演奏家として初演するはずの曲(注:ト短調の協奏曲)は言葉のもっとも厳密な意味での協奏曲です。私が言いたいのは、それはモーツァルトやサン=サーンスの協奏曲と同じ精神で書かれているということです。私見では、協奏曲の音楽というものは陽気で華麗なもので、奥深さを求めたり、劇的な効果をねらったりする必要はないのです。一部の古典派の偉大な作曲家について、その協奏曲がピアノの『ために』ではなくピアノに『反して』着想されたといわれてきました。私としては、この判断は完全に理由があると思います。私は当初、この協奏曲を《ディヴェルティスマン》と名づけようと思いましたが、その必要はないと考え直しました。協奏曲という題名だけで十分明確に述べられていると思ったからです。
左手だけのための協奏曲はまったく違います。それは多くのジャズの効果を含んでいますし、処方はそれほど軽くはありません。この種の作品では、両手のために書かれたパートよりもテクスチュアが薄くないという印象を与えることが大事です。私は同じ理由で、より重々しい種類の伝統的な協奏曲にずっと近い様式を用いました。
アービー・オーレンシュタイン著『ラヴェル―生涯と作品』 p.132-133
ジャズの影響と言えば、どちらの協奏曲もジャズの要素を取り入れた傑作であることは、どんな解説書にも書いてある事ですが、上の文章で、ト短調の協奏曲についてはより古典的音楽と結びつけて考えているのは、面白いなと感じました。
ラヴェルのピアノ協奏曲の名盤:サンソン・フランソワ(P)/クリュイタンス指揮
録音も多数のぼり、どれも曲を十二分に楽しむには問題はないと思いますが、迷っていらっしゃる場合は、下記のおすすめをご参考にどうぞ。
まずは両方の曲が入った便利で人気な国内盤と言えば、冒頭に写真も挙げて居りますサンソン・フランソワ(P) アンドレ・クリュイタンス指揮/パリ音楽院管弦楽団 ラヴェル:ピアノ協奏曲集。
フランソワらしい即興性の溢れたユニークな名演
きちっと弾かれているのを好む方には、フランソワのテクニックに難を感ずるかもしれません。また、フランソワの特徴をよく判って、機敏に対応しているクリュイタンス指揮おオーケストラの伴奏ですが、やっぱりズレが生じている、正確でない・・・と、ちょっと眉をひそめる方もあるでしょう。
でも、「これはこれでこういうもの!」と楽しむのが、フランソワの演奏を聞くコツかも知れません。こんなにスリリングな演奏はやっぱりないものです。
私見では、これだけ自分流に弾いていても、妙に思わせぶりと言いますか、感傷的というか、そこら中で目にするうっとり演技を感じないで、音楽で勝負しているのが、フランソワだなと思います(なんだか意味が通じないですが・・・)。
なお、このフランソワの演奏は、輸入盤のBudget Box サンソン・フランソワ(P) ドビュッシー&ラヴェル録音集(6枚組)でお求めになるのもご一考の価値ありです。価格的もリンク先ご覧の通りと割安。フランソワ魅力を感じたら、あれもこれもと聴きたくなるものですし、新譜二枚分と考えたら、魅力的ではないでしょうか?
曲目は
サンソン・フランソワ(P) ドビュッシー&ラヴェル録音集(6枚組):収録曲
ドビュッシー
CD1:前奏曲 第一集&第二集
CD2:映像I&II / 夢想(Rêverie) / アラベスク / レントより遅く / 練習曲第二巻から5曲 / マスク / 喜びの島 / 英雄的な子守歌(Berceuse Héroïque)
CD3:子供の領分 / 版画 / ベルガマスク組曲 / ピアノのために組曲
ラヴェル
CD4:ピアノ協奏曲 ト短調 / 左手のためのピアノ協奏曲 / マ・メール・ロワ(四手。共演はピエール・バルビゼ)
CD5:亡き王女のためのパヴァーヌ / 高雅で感傷的なワルツ / プレリュード / 水の戯れ / ハイドンの名によるメヌエット / 鏡 / ・・・風に
CD6:夜のガスパール / ソネチネ / クープランの墓 / 古風なメヌエット
ラヴェルのピアノ協奏曲の名盤をもう一つ:アルド・チッコリーニ(P)/マルティノン指揮
もう少し、正統的(?)な演奏で、二曲のピアノ協奏曲を同じピアニストが入れたものは、輸入盤のBoxセットを探すと良さそうです。
例えば、同じEMIの廉価版Boxでは、アルド・チッコリーニのピアノで録音されている輸入盤 ジャン・マルティノン指揮 ドビュッシー&ラヴェル管弦楽曲集(8枚組)。
フランソワがいろいろ崩して、判りづらいところが判ったりするかも知れません(その崩しが、フランソワの美点なので、致し方ないことです)。
これはドビュッシーとラヴェルそれぞれに4枚ずつの割合で、主要な管弦楽曲が入っていて、ラヴェルの管弦楽曲も併せて一気に聴きたい時に好都合。ドビュッシーにも定評の高いジャン・マルティノンですし、この価格というのは、大変うれしいもの。
ジャン・マルティノン指揮 ドビュッシー&ラヴェル管弦楽曲集(8枚組):収録曲
ドビュッシー
CD1:海 / ノクターン(夜想曲) / 牧神の午後への前奏曲 / スコットランド風行進曲 / 英雄的な子守歌(Berceuse Héroïque) / リア王のための音楽
CD2:遊戯(Jeux) / 管弦楽のための映像 / 春
CD3:子供の領分 / 小さな組曲 / 2つの舞曲 / おもちゃ箱
CD4:幻想曲(ピアノと管弦楽) / レントより遅く / 管弦楽とクラリネットのための狂詩曲 / 管弦楽とサクソフォーンのための狂詩曲 / カンマ / シチリア風タランテラ
ラヴェル
CD5:ボレロ / 鏡の第三曲 海原の小舟 / マ・メール・ロワ / 鏡の第四曲 道化師の朝の歌 / スペイン狂詩曲
CD6:シェエラザード(シェヘラザード) / クープランの墓 / 古風なメヌエット / 亡き王女のためのパヴァーヌ / 高雅で感傷的なワルツ
CD7:ダフニスとクロエ(全曲です)
CD8:左手のためのピアノ協奏曲 / ピアノ協奏曲 ト短調 / ツィガーヌ(Vn ソロ:イツァーク・パールマン)
上の曲目をご覧の通り、ラヴェルには、同じ曲のピアノ版と管弦楽曲版とを両方作曲したものが数多くあります。両方のセットを揃えてみて、一曲一曲、ピアノ版と管弦楽曲版を交互に聴いてみて、「この曲は、どんなオーケストレーションをしているのだろう」と考えてみるのも面白い試み。
余裕があれば、併せてどうぞ。
結構、長くなりましたので、本日はここまで!
予定よりもう一回回数を増やして、その他のピアノ協奏曲の録音をご紹介しようと思います。
では!
関連のおすすめ:
フランソワのこの録音DVDが出ている事をご紹介しわすれておりました。CDでフランソワの独特の演奏を聴いていれば、「一体、その演奏姿はどんな・・・」と気になる所では?
輸入盤DVD サンソン・フランソワ演奏 ショパン:ピアノ協奏曲第1番、ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト短調、ドビュッシー:喜びの島
輸入盤DVD サンソン・フランソワ演奏 ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲 ト短調、グリーグ:ピアノ協奏曲
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