大分間が空きましたが、ジョージ・フリデリック・ヘンデル(ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル 1685-1759)のご紹介は、本日でひとまず一段落。
オペラをもう一作取り上げたいと思います。ヘンデルの17作目のオペラ1723年に作曲された《ジュリオ・チェーザレ》(初演は翌1724年、ロンドン)。
昨年末に漸く日本語盤も出たウィリアム・クリスティー指揮の2005年グラインドボーン音楽祭のライヴ映像です。
ヘンデル:歌劇《ジュリオ・チェーザレ》のあらすじ
この3幕のオペラ、ジュリオ・チェザーレ、日本になじみのある名なら、ジュリアス・シーザーないしは、ユリウス・カエサル。カエサルが、ポンペイウスを追って、エジプトに入城してからの顛末です。
登場人物と元々の配役は、
・チェーザレ(カエサル、シーザーです。Castorato)
・クレオパトラ(エジプトのプトレマイオス朝のクレオパトラ7世。カエサルを籠絡しようと企むが、次第に本当の愛情が、、、Soprano)
・トロメオ(エジプトのプトレマイオス朝のプトレマイオス13世。クレオパトラの弟で姉とも争う。ポンペイウスを殺し、カエサルに敵対。コルネリアに横恋慕。Alto castrato)
・コルネリア(ポンペイウスの未亡人。Contalto/Mezzo-soprano)
・セスト(ポンペイウスとコルネリアの息子。父の復讐を誓う。mezzo-soprano/Tenor)
・ニレーノ(クレオパトラの部下。Alto castrato)
・アッチラ(トロメオの部下、コルネリアを横恋慕する故に、ポンペイウス殺害をトロメオに進言。Bass)
・キュリオ(カエサルの部下。Bass)
襞の多い話なので、極簡単にあらすじをを説明致しますと・・・
政敵ポンペイウスを追って、エジプトに上陸したカエサル。ポンペイウスの妻子 コルネリアとセストが、カエサルにポンペイウスの命乞いを頼みますが、トロメオ(エジプトのプトレマイオス朝のプトレマイオス13世)により既に殺害されておりました。これが出過ぎた真似であり、トロメオとカエサルの間には緊張が走ります。
簡単に言えば、このカエサル対トロメオの戦いが本筋ですが、その間にさまざまなサブストーリーを配置。カエサルを籠絡しようと近づいたクレオパトラはすっかりカエサルに恋に落ち、セストは父を討ったトロメオへの復讐を誓います。また、未亡人コルネリアに欲望をいだくトロメオ、そして、その部下アッチラの心情と行動・・・これらが複雑に絡み合いながら進む、展開も早く、緩急も巧みな、躍動的な物語。
ヘンデル:歌劇《ジュリオ・チェーザレ》おすすめ名盤:DVD ウィリアム・クリスティー指揮 グラインドボーン音楽祭
ご紹介すDVDは、昨年末に漸く日本語盤が出たウィリアム・クリスティー指揮 ヘンデル:オペラ《ジュリオ・チェーザレ》2005年グラインドボーン音楽祭のライヴ映像です。(幾らかでも安価に!という場合は、日本語字幕はございませんが、こちらの輸入盤から)
これは誰にでもおすすめできる良いライヴ映像で、ご覧になれば、ヘンデルが単純ですとか、退屈ですとか、その様なことは今後言えなくなる傑作ではないでしょうか?
指揮&演奏:ウィリアム・クリスティー/エイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団(The Orchestra of the Age of Enlightenment)
演出:デイヴィッド・マクヴィカー David McVicar
仕様:リージョン・コード2/NTSC(輸入盤はリージョン 0)
言語:歌唱はオリジナル通り、イタリア語。国内盤はもちろん日本語字幕あり。(輸入盤の字幕は伊、英、独、仏、西。)
シーザー:サラ・コノリー Sarah Connolly
クレオパトラ:ダニエル・デ・ニース Danielle de Niese
トロメオ:クリストフ・デュモー Christophe Dumaux
コルネリア:パトリシア・バードン Patricia Bardon
セスト:アンジェリカ・キルヒシュラーガー Angelika Kirchschlager
ニレーノ:ラシッド・ベン・アブデスラム Rachid Ben Abdeslam
アッチラ:クリストファー・モルトマン Christopher Maltman
キュリオ:アレクサンダー・アシュワース Alexander Ashworth
DVDでまっさきに気になるのは演出ですが、これが見事!古典的と現代風、新奇なものとクリシェをうまく融合して、デ・ニースの美貌を使いこなしてほどよくエロティックで、真面目と不真面目をいききする素晴らしいものと思いました。本来このくらい、「いかがわしい」ものだったのではとも感じさせます。なので、現代風なのか、これこそ正統なのか、なんだかわからなくなりますが、兎に角、面白い!!
舞台装置は背景などもやはりほどよく古典的でいかにもバロック的な遠近法なども活用して同様に違和感なし。舞台転換が頻繁かつ巧みで目にも楽しいです(それがまた音楽とぴったり!)。大仕掛けから小道具まで、うまく芝居に活かされています。
演技・振り付けに関しては、身振り手振りによる性格描写が大変うまいです!!踊りの要素が入っていて、特にクレオパトラなどかなり踊らされていますが、観客を退屈させません。コミカルな踊りを使って、思わず笑わせるくすぐりが多々。いや、時には観客もすっかり吹き出してしまっています。
こういうものを演出家(Art Director)マクヴィカーがすべて決定するのかよく存じませんが、根本的に登場人物の関係と感情をきちっと把握して、演技・振り付け・踊りを考えていると感じました。おふざけがおふざけに終わらないのは、それ故かと思います。観客の予想に答えたり、裏切ったりのその緩急の付け具合も見事!!!と感心するばかりです。この出来は、ありそうでなかなか見当たらない水準ではないでしょうか?
鑑賞上のネタばれを控える為に、第一幕で出てくる例だけで申し上げれば、例えば
・クレオパトラとシーザーの出会い&クレオパトラのアリア:女の武器を使う、賢しいクレオパトラが半ばコミカルにステレオタイプに描かれますが、演出家はそれを百も承知で使っているのが伝わります。
・シーザーとトロメオの対峙の場面:音楽に合わせて、シーザーが敵方トロメオの一団が相対しする場面で、皆がボックスステップを踏みます。これがうまい具合に、二人の敵対関係、毒殺の罠をかわすシーザが、たかだかこのボックスステップだけで大変印象的に、そして、軽やかに緊張関係を伝えます。
上の場面など、マクヴィカーは、ミュージカルの手法を取り入れていると思うのですが、それを言うと、アクション映画の要素などもふんだんにあって、ただ最終的に見事にオペラの舞台に収めていることに、大変な才能を感じました。
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歌手については、クレオパトラのダニエル・デ・ニース(デ・ニエーズ、デ・ニエーゼと記述が定まりません)とトロメオの部下 アッチラのクリストファー・モルトマンは、見事にはまり役!という感じました。歌唱も心地よいものでした。
といっても、脇役も含めて皆にアリアの見せ場をつくるこのオペラ。他の歌手も見事な歌を聴かせます。これがまた優れた演出と合わせて、歌にも即興が織り込まれたりと愉快に楽しみながらも、すっかり、関心させられました。この点、見事なアイディアでもあり、古典の舞台をよく考慮したとも言えるでしょう。
カエサルを唱うサラ・コノリーはソプラノ歌手ですが、なんだか女性に見えません。女性に見えないけれど、やっぱり女性で(?)、適役トロメオのカウンターテナー クリストフ・デュモーの「男の高音」が微妙にいかがわしさを感じさせることに、うまい対比になっています。カエサルの第二幕の第二場のアリアなど見事!
ポンペイウスの妻コルネリアのパトリシア・バードンの歌唱が、第一幕だけすこし乱れますが、別にそんなことは問題ないでしょう。息子セストのアンジェリカ・キルヒシュラーガーは見事に真面目な青年にぴったり。
ニレーノのアブデスラムもアリアでその声とともに楽しい踊りを披露。
私の見た、ヘンデルのDVDでもかなり良い出来で、今現在手に入るものではまっさきにおすすめしたいものの一つ。皆様もぜひ一度ご覧になられんことを!
では!
関連のおすすめ:
◎ソプラノ ダニエル・デ・ニースの作品から
- CD&DVD ダニエル・デ・ニース(Sop) スウィート・ディーヴァ~ヘンデル・アリアス(DVDつき初回限定版)(こちらはCDのみの通常版。)
- CD ダニエル・デ・ニース(Sop) 《サイバー・ディーヴァ》
◎ウィリアム・クリスティーの作品から
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◎ヘンデルのオペラを探すには
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◎歴史書から