2009年2月に刊行されたミシェル・シェヴィ 著『大指揮者 カール・シューリヒト 生涯と芸術』を読み終えたので、つたない感想を。
本書原題は、Carl Schuricht 1880-1967 le rêve accompli(適えた夢)。
シューリヒトの伝記がなくて、私も好きな指揮者だけに「なにかないか・・・」と長年思っていた中での書籍。飛びついて読んでみました。
ミシェル・シェヴィ著『大指揮者 カール・シューリヒト 生涯と芸術』の感想
本書を書くにあたって、著者企図せるところは以下の6点(前掲書 p.21-22)。
- もっとも重要な演奏会を、日付、場所、ソリスト、合唱団、オーケストラ、観客、批評、その雰囲気とともに記録すること。
- バロック、古典派、ロマン派、後期ロマン派、現代音楽からなるレパートリーの全容を示すこと。
- レコード録音の概略を、最も重要で、貴重な録音を明らかにしながら記録すること。
- 戦争の暗い時代、平和が戻った時代など、彼が経験したすべての時代を振り返ること。シューリヒトの全ての活動が、歴史的な状況から検証され、また部分的にも究明されること。
- 演奏史のなかにシューリヒトを位置づけ、人間としてまた芸術家としての生涯を浮き彫りにすること。
- 人物評伝は、聖者伝説とは異なるものである。この指揮者のことをよく知ろうとする読者ならば、彼を褒め称え、あがめるだけの評伝には嫌悪感しか感じないであろう。彼の芸術家としての生涯には、幾多もの満たされなかったこと、失意や落胆、厳しい運命の仕打ちなどがあった。そういった部分も、この演奏家の異論のない業績や、彼のもたらした数限りない成功を称えなければならないのと同じくらい、言及すべき必要がある。
さて、これが適えられたならば素晴らしい書籍です。
惜しむらくは、シューリヒトの手記の類いがあまり残っていないそうで、指揮者自らの言葉がページ数の割合にはかなり乏しいこと。折角のアンセルメ、フルトヴェングラー、バックハウスらとの交わりも、結局、著者の列挙する事実に頼る部分が強く、せめて交流した音楽家の言葉があれば・・・
重要な演奏会について大変詳細に列挙されますが、これは一覧表形式にした方が良かったか・・・とも感じました。シューリヒトのレパートリー、ディスコグラフィー/フィルモグラフィーも同様です。著者はもう一冊を準備中とのことで、そちらの方には一覧表で載るのかも知れません。
またそれぞれの演奏会について、メディアの公演表を逐一載せるのが少々冗長かと。著名なブルックナーの交響曲第9番のEMI録音については、ピアニスト バドゥラ=スコダの贈った感謝状が長く列挙されており、面白い内容でした。批評家の言葉はほどほどに、このような音楽家の感想を載せる様にした方が、また、できれば存命中のオーケストラのメンバーに思い出を語ってもらった方が、面白い内容になったのではと感じて居ります。
シューリヒトの面白さ・素晴らしさは聴けば分かるものですから、批評家の礼賛記事を元に、著者の高ぶった賞賛の文章を並べるよりは、もう少し違う言葉を聞きたかったな・・・と。
ただ、これは私の一読後の感想ですし、貴重な伝記的詳細から当時の雰囲気が伝わって、シューリヒト・ファンには楽しいもの。まだ新刊で大きな書店には並んでおりますので、ゆっくり書見されることをおすすめ致します。
シューリヒトおすすめ名盤・CD
自分でもなんでか分かりませんが、シューリヒトの演奏がなんだか好きで、それなりに聞いて居ります。といって、どこがシューリヒトらしいのか、と聞かれるとなんとも答えられないのですが・・・
昨今、マイナーレーベルからさまざまなライヴ音源が出て、同じ曲にもいろいろな録音があって悩むところかも知れませんが、非常におおざっぱに言って、ライヴ録音では、存外にテンポも揺れて激しく、スタジオ録音だけからシューリヒトを想像すると意外に思うかも知れません。
音はずし等々が気になる方・ぴったりあったアンサンブルを好まれる方がライヴ盤を探される時は、さすがにベルリン・フィルとの共演ならまず間違いはないですが、例えば、ウィーン・フィルのブルックナーもライヴですといろいろありますし、シュトゥットガルト放送交響楽団との録音など曲によりアンサンブルはかなりぶれますので、そこは余り気にせずに居た方がいいのかなと。
かくなる次第で、上述のバドゥラ=スコダが感動のあまりに手紙を贈った
シューリヒト指揮/ウィーン・フィル ブルックナー:交響曲第9番
は、これだけはスタジオ録音をおすすめしますが、後はそれぞれの曲、それぞれの楽団でいろいろ違う所も、似た所もあるなぁとのんびり聞いて行くのがいいかなと思っております。
Boxセットが幾つもでていて、てっとり早くさまざまなレパートリーを揃えることが可能です。例えば、Decca録音集は、内容的にオーストリア・ドイツの重要曲重視のセット。正規録音のシューリヒトの概要をつかむのに良いBox。
輸入盤シューリヒト指揮 Decca Recordings 1949-1956(5枚組):収録曲詳細(順所は収録順と異なります)
ベートーヴェン:
交響曲第1番 Op.21(ウィーン・フィル)
交響曲第2番 Op.36(ウィーン・フィル)
交響曲第5番 Op.67(パリ・コンセルヴァトワール管弦楽団)シューベルト:
交響曲第8番 D.759《未完成》(ウィーン・フィル)メンデルスゾーン:
序曲 フィンガルの洞窟 Op.26 / 静かな海と楽しい航海 Op.27 / 美しきメルジーナ Op.32 / リュイ・ブラース Op.95(ウィーン・フィル)シューマン:
Overture, Scherzo and Finale Op.52(パリ・コンセルヴァトワール管弦楽団)
交響曲第2番 Op.61(パリ・コンセルヴァトワール管弦楽団)
交響曲第3番 Op.97《ライン》(パリ・コンセルヴァトワール管弦楽団)ブラームス:
交響曲第2番 Op.73(ウィーン・フィル)
ヴァイオリン協奏曲 Op.77(C.フェラス&ウィーン・フィル)
ピアノ協奏曲第2番 Op.83(バックハウス&ウィーン・フィル)チャイコフスキー:
イタリア綺遊曲 Op.45 / 組曲第3番 Op.55 Tema con variazioni(パリ・コンセルヴァトワール管弦楽団)
その他、オーケストラはやや不安定ながらも、シューリヒトの広いレパートリーを知るには、やはりおすすめなのが。DVDは小一時間ほどの、シューリヒトの簡単な伝記(ドイツのTV局作成)と演奏風景を収録。
輸入盤シューリヒト指揮 シュトゥットガルト放送交響楽団録音集(Hanssler Classics 20枚+1DVD)
単倍もしているので、こちらはCD収録順に内容を記載すると
CD1:
ベートーヴェン:交響曲第7番 Op.92 / シューマン:交響曲第2番 Op.61CD2:
ベートーヴェン:交響曲第9番 Op.125(マリア・シュターダー、マルガ・ヘフゲンほか) / コリオラン序曲CD3:
ブラームス:交響曲第2番 Op.73 / 運命の歌 Op.54 / 悲歌 Op.82CD4:
ブラームス:ドイツ・レクイエム Op.45(マリア・シュターダー&ヘルマン・プライ)CD5:
ブルックナー:交響曲第4番CD6:
ブルックナー:交響曲第5番CD7:
ブルックナー:交響曲第7番 / ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》前奏曲と愛の死CD8:
ブルックナー:交響曲第8番CD9:
ブルックナー:交響曲第9番CD10:
グリーグ:演奏会用序曲《秋に》Op.11 / ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 Op.26(ヴァイオリン H.シュネーベルガー) / ヘルマン・ゲッツ:ヴァイオリン協奏曲 Op.22(ヴァイオリン R.シマー) / フォルクマン:《リチャード三世》序曲 Op.68CD11:
ハイドン:交響曲第100番《軍隊》/ チェロ協奏曲第二番(チェロ E.マイナルディ) / 交響曲第95番CD12&13:
マーラー:交響曲第3番(R.Siewert メゾ・ソプラノ) / R.シュトラウス:アルプス交響曲CD14:
モーツァルト:交響曲 第35番 K.385《ハフナー》 / 交響曲 第38番 K.504《プラハ》 / 交響曲 第40番 K.550 / コンサート・アリア No, no che mon sei capace K.419(Sop ルート=マルグレート・ピュッツ) / 《フィガロの結婚》から Porgi, Amorアリア (Sop E.シュワルツコップ) / 《魔笛》から Dies Bildnis ist bezaubernd schon(Tr F.ウンダーリヒ)CD15:
モールァルト:ピアノ協奏曲 第9番 K.271 / ピアノ協奏曲 第19番 K.451(二曲ともにピアノ クララ・ハスキル)CD16:
レズニチェク:A.v.シャミッソーの詩《悲劇的な物語》にもとづく管弦楽とバリトン・ソロによる主題と変奏(Bar B.マクダニエル) / R.シュトラウス:《グントラム》序曲 Op.25 / プフィッツナー:《ハイルブロンのケートヒェン》序曲 Op.17 / レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ Op.132CD17:
シューマン:《マンフレッド》序曲 Op.115 / Overture, Scherzo and Finale Op.52
メンデルスゾーン:《静かな海と楽しい航海》序曲 Op.27 /《フィンガルの洞窟》序曲 Op.26 / 《真夏の夜の夢》演奏会用序曲Op.21とNoturno Op.61-7, Scherzo Op.61-1CD18:
ワーグナー:《パルジファル》から 第一幕への前奏曲 / 《トリスタンとイゾルデ》から 第一幕への前奏曲 / 《神々の黄昏》から 夜明けの場面とジークフリートのラインの旅 / 《神々の黄昏》から ジークフリートの葬送行進曲 / ジークフリート牧歌 / 《パルジファル》から 聖金曜日の音楽 / 《パルジファル》から 第三幕の終曲CD19&20:
マーラー:交響曲第2番(ソプラノ H.Mack-Cossack & アルト H.テッパー) / ハイドン:交響曲第86番DVD:
シューリヒトのドキュメント Portlait of Life(41分) / ストラヴィンスキー:組曲《火の鳥》全曲 / モーツァルト:交響曲第35番《ハフナー》から第四楽章
オーケストラが不安定でも、やっぱりシューリヒトらしいので、そこは気にせず楽しみたいBoxです。上述の伝記で、シューリヒトが実は大変好んで居たとされる、マーラーの録音が聞けるのが嬉しいところです。チェロのマイナルディやピアノのハスキルなど、「おっ」と目を惹く共演も。
では!
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