
直接的に次ぎに誰を聴くか・何を聴くかの参考にもなるものも多いですし、例えほんの数行でもきらりと光る一言があったりするものです。
例えば、私がアニー・フィッシャーの名前を知ったのは、右のリヒテルに関する著作です。我ながら単純なので、「リヒテルが誉めているからには、良い演奏家に違いないっ!」と信頼して、次にCDを買う際の参考に致しました。いまではあたかも自分で見つけたような口ぶりでご紹介しています・・・
勿論、演奏家の本全てが良いというわけでもなく、分析的に書く人も居れば、詩的に文章を綴る方もありますし、長々と書いても結構通り一遍のことかな〜と(生意気ながら)感じることもあれば、寸言ながら実に言い得て妙だということもあります。どういう事情だか、次から次へと著作が出てくる演奏家も居らしたり・・・いずれにせよ私自身の経験では面白いな〜と思うことが多いです。
では具体例!
上に挙げたブリューノ・モンサンジョン著『リヒテル』は、前半が同じくモンサンジョン製作のDVD『〈謎(エニグマ)〉~甦るロシアの巨人』に該当し、後半はリヒテル本人による演奏会やCDの寸評をひたすら挙げています。
前半では、プロコフィエフやショスタコーヴィチら同時代の作曲家に関する貴重な証言があり、また、指揮者ムラヴィンスキーやヴァイオリニスト ダヴィッド・オイストラフの思い出話が出てきます。
後半の寸評も実に素晴らしいものです。ヴァイオリニストのオレグ・カガン、指揮者バルシャイ、いまではすっかり名前が知られるようになったピアニスト ヴェデルニコフ他、20世紀後半のロシア人演奏家に対する感想がずらりと並んでいますし、グールド、アニー・フィッシャー、カルロス・クライバーら西洋の演奏家に対する感想もそこかしこに出てきます。フルトヴェングラーに大変心酔していたのが非常に印象的でした。
高い書籍ですが、それだけの価値は十二分にあると思います。CD評については概ね何年の録音というところまで書いてあるので、次になにを聴くかの参考にするに不便はないと思います。

翻訳の文体がわりときちっとしているので、本を読んでいると、リヒテルについてきちっとした大人物といった印象を受けましたが映像で見ると、時に沈鬱そうだったり、幻想詩人(?)のようだったり、お茶目な老人だったり、いろいろ印象も変わってくると思います。

ピアニストなら、コルトー、エドウィン・フィッシャー、ケンプの話が多く出てきますが、「指が回らない。メカニックに弱い」で片付けられることも多いので、これを読んだ時、強い味方を得た思いでした。
ちょっと引用しますと、例えば、エドウィン・フィッシャーについて、時々リズムが走り出すことがあると指摘しながら、
しかしそれがひじょうにおもしろく、刺激的な効果を生むこともあります。そのもう一方で、フィッシャーは誰よりも聴き手に安らぎを与えるのがうまい演奏家でした。音が静かに浮かんでくるバッハなどがその良い例ですが、節々に拍子ごとに重いアクセントをつけることが多い今日のバッハ演奏とは完全に逆のことが行われていました。
わたしも、単にCDを聴きながしているだけのいい加減な音楽好きですが、こういう言葉を読むと、では聴き比べてみよう・・・その為に最近のバッハ演奏もちょっと買い足してみようかな・・・楽譜も買ってくるか・・・とか、そんなことを致します。
以前にこのブログでご紹介したディヌ・リパッティの評伝もそういう楽しみ方ができる本ですね。
今後とも、音楽家の書籍を出来る限りご紹介して参りますので、図書館などに行かれる際はちょっと思い出していただければ幸いです。
ではまた明日!