ヘンデルを録音した後は、いつも浄められたように感じます。ヘンデルは健康的な音楽です。不健康な音楽と何日間過ごしても、彼の音楽と共に一日過ごせば、再び健康を回復することができるのです。ヘンデルは基本的な人間の感情、清純、善良、愛や怒りなどのごく普通の感情を我々に与えてくれます。(中略)
私たちはヘンデルの時代から遠く隔たっています。当時は、比較的単純な感情の時代でした。その頃に我々の時代のような心理的葛藤があったとは考えられません。
デイヴィット・ダバル編『メニューインとの対話』
メニューインが言うように、「比較的単純な感情の時代」なのかどうかは、例えばヘンデルの後半生の舞台となったダブリンの文豪スウィフト − いささか極端な例かも知れませんが − を考えれば、果たしてどこまでそう言えるのか・・・とは思います。
こういったことは、公に許された表現形式との兼ね合いもありますし、それに現代人の感情も果たして本当に複雑かと問い直せば、複雑な表現を好むだけで至って単純なのかも知れずなんとも難しい問題ですが・・・いずれにせよ、実際にヘンデルの作品を聴くと、私などは上のメニューインの言葉に然りと思ってしまいます。
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1685年2月23日、現在のドイツのハレに生まれたヘンデルですが、20歳そこそこでイタリアに移り、20代後半からはイギリスを舞台として活躍。同世代の音楽家には大バッハやドメニコ・スカルラッティ、ラモーなどが挙げられます。
ヘンデルに関しては、こちらでも度々お薦めしている音楽之友社の作曲家◎人と作品シリーズからも昨年2007年初頭に伝記が刊行されておりましてお薦めです!
この三澤寿喜著『作曲家◎人と作品 ヘンデル』では、記録が少ないのかヘンデル自身や同時代人の生の言葉は余り記載されていないのですが、興行主兼作曲家であったヘンデルのいわばビジネスマンの風貌が見えて来たり、当時の中産階級と芸術の関わりが見えたりして面白いものです。
作品紹介も熱く!詳細に語られておりまして、私の買い物にもいつも参考にしています。
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さて、ヘンデルの名盤紹介と参りましょう。ヘンデルと言うと、やはりオラトリオの《メサイア》がまっさきに浮かぶでしょうか?《メサイア》については、Look4Wieck.comで取り上げたことがありますので、本日は同じオラトリオから上の三澤 寿喜著『ヘンデル』でも強く賞賛している、他の2作品をご紹介しようと思います。
その2作品とは《セメレ Semele》と《ヘラクレス Hercules》。《メサイア》の数年後、ヘンデルが60歳手前頃に作曲したものです。
《セメレ》も《ヘラクレス》もカテゴリーとしては、世俗的オラトリオとされているそうです。それは題材を聖書に取らず、ギリシャ神話に取っているからで、あらすじもどちらにしても愛憎を原因とする悲劇。ゼウスだアポロンだヘラクレスが出てくる悲劇といっても、実のところ、大仰なものでなく人情ものと言ってよいと思います。そういう点でも入りやすいかも知れません。
これが聴いてみると、大変心地よく聴けてしまいます。音楽を聴いてから歌詞カードに目を通すと、意外に深刻な場面だったり、はたまた随分書き割り的(?)な筋の進行にちょっととまどったり、後世の劇作品とは随分違うところがまた面白いです。一応は悲劇なのですが、最後は明るく終わるのも当時の聴衆の好みかしら・・・と想像がいろいろ膨らみます。
私が持っているのは、《セメレ》がガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツのErato盤と、ジョン・ネルソン指揮イギリス室内管弦楽団のDG盤。
私の好みもそうですが、後者ネルソン盤の方が評価が高いようで、キャスリーン・バトルやマリリン・ホーンなど有名歌手も揃っています。
《ヘラクレス》はやはりガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツのアルヒーフ盤とミンコウスキ指揮Les Musiciens du Louvreの同じくアルヒーフ盤。
こちらもやはり世評は後者ミンコウスキ盤が高いと言って良いのかしら、歌手もフォン・オッターやリチャード・クロフトなどの有名どころがおります。
ガーディナー盤は概して朗らかさわやかなオラトリオとして進行して行くのに対して(歌詞も聞き取りやすい感じがします)、ネルソン盤・ミンコウスキ盤はよりオペラ風で劇的といっていいでしょうか?
ミンコウスキ盤は特にそういうところがあって、初めて聴いたとき、「こんなにドラマティックだったんだ」と意外な感心も持ちました。
歌手の配役も、ソプラノを使うか、カウンターテノールを使うか、バリトンか、バス・バリトンかとかなり違いがあります。
こんな文章を書きながら、私もどっちがどうで、あれがいい、これがいいという詳細な意見もなく、結局、上に書いたようになんとなくの好みあるけれど、どちらも聴いているのが実情です。
米国Amazon.comのレビューに、カットの有無、配役等々について、詳細な意見がいろいろあるので、それを参考に決めても良いかと思います。
なにはともあれ拙文が、ヘンデルを聴いてみよう!のきっかけになれば幸いです。
ではまた次回!
わざわざ昨日のような記事まで綴って下さって・・・かえって赤面でございます。
ヘンデルはオペラもなかなか良いです。DVDが豊富に出るようになりましたから、それもご紹介頂けたら嬉しいです!(訳書ですが、研究した書籍にも、いいものがあります。)
アンセムも捨て難いのですが・・・意外と入手しにくいし、何から利いていいか分からないんですよね。ヘンデルの「作曲家○人と作品」は、もうでましたっけ? まだだったかな・・・まだなら、ハイドン同様、早く読みたいですね。。。
失礼しました!
お気づきの通り出てますよ!『ヘンデル』。
アンセムのお薦めは、著者の口ぶりから察するに《シャンドス・アンセム》と《キャロライン王妃の葬送アンセム》のようです。これに限らず、「聴かないと!」と思わせる熱い書き方です。
オペラDVDは実はそんなに手が出ていないので、来年の誕生日までになんとか・・・(最近、いろいろですぎです、それはそれで「もーー」)
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昨日の話はほんと重要なことです。こういうブログなどをやっていると、知ったような顔でいろいろ書いてしまうのですが、あのコメント書いてみて良かったなと、ほんと思います。
http://ken-hongou.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/post_71cf.html
良い曲です。
シャンドス・アンセムの方が入手はしやすいかも知れません。
その記事まだ拝読しておりませんでした。
そうなると、『ヘンデル』の本の中ではアンセムの曲名は具体的にそんなに上がってないので(後、三つ四つという程度です)、探し物には今ひとつかもです。。。