世界史を思い出すと、グレゴリオ暦の制定は1582年なのでバッハの生まれる前では?と思うところですが、導入は各国まちまち。ヨーロッパ内でもカトリック教会が制定したものなので、プロテスタント諸国がなかなか導入しなかったりという事情もあったそうです。
バッハの伝記には大概触れられている事柄ですが、生地チューリンゲンのアイゼナッハはマルチン・ルターが匿われたヴァルトブルグ城がある土地で、当然プロテスタント諸侯国。ドイツのプロテスタント諸侯国でのグレゴリオ暦の導入はバッハが生まれて数十年ほどで行われたようです。
・・・ちょっとしたトリビアでありました。
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さて、バッハは作曲数が多い上に名曲も多く、どれを取り上げるか悩むところです・・・先日、横山幸雄さんの新譜をご紹介したゴルトベルク変奏曲 BWV988にしようかな、、、友人の結婚祝いの贈り物候補にしている無伴奏チェロ組曲 BWV1007-1012も(私の力では全然ない!ですが)面白い形で取り上げているし(ちなみにもう一つの候補はべートーヴェンのピアノソナタ全集です)、、、その他 鍵盤楽曲だけでもあれこれありますし、宗教曲ならミサ曲 ロ短調 BWV232かな、オルガン曲(Look4Wieck.comで意外性のない記事をちょろっと書いてます)、、、うーーん、、、
・・・ということで、えいやっ!と無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータに致しました。
最初にバッハを聴き始めるといったら、ゴルトベルク変奏曲や無伴奏チェロ組曲と並んで、この曲からという方も多いかと思います(という私はミサ曲 ロ短調からでした)。
初めて聴かれる場合、まずシャコンヌを!と探されるなら、パルティータ第2番ニ短調の終曲なので普通CDの二枚目にありますよ!
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私が最初に聴いたのは、昼食を抜いて貯めたお金で一遍に二つ買った少年時代。シゲティ(国内盤・輸入盤)とシェリング(国内盤・輸入盤)。未だに名盤○○選に一位・二位に上がるものですね。対照的とも言える演奏で、こっちはあれが好き、こっちはそれが好きなどと思っていました。
その頃は「いろんな作曲家のいろんな曲を聴きたい!」が先で、そもそも一曲に複数買うのも予算オーバーです。何年も経って幾らかそれも見通しがついた(気になって)、多少お金の余裕も出て来てから、この曲ももっと他の演奏家で聴こうかな・・・となりました。よくあるストーリーではないでしょうか?
そう言ったって手持ちのものでも十何種類という位です。この名曲にも録音が多数で、名人は取り直しも多いですし、もう私の手に余るほど。そもそも、誰のどの曲だって−大体お察しと思いますが・・・−そんなやたらと聴いておりません、、、
ここで変なことを言いますと、予算がふんだんにあって、「バッハの無伴奏が好きで好きでしょうがない」ということでなければ、この一曲に10種類・20種類もとなるのは、一般的にはどうかなとちょっと思います。ましてや「あれ持ってる?これ持ってる?」競争に巻き込まれてお金を使うのはもったいないな・・・と。
本日の記事は、「私などがいろいろ聴いてみても、みんなそれぞれ良いと思うだけで・・・」と、そんな含みもあります・・・実のところ。それでも多少とも変わったご案内になっていれば良いですが!
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上のシゲティ、シェリングを含め下に試みに挙げるヴィルトゥオーゾの名録音は − 晩年のシゲティは世評でも二言三言、中には随分心ない言葉もあるものですが − バッハのこの曲を普通に聴いて楽しみ、興味を深めるという意味ではどれも甲乙付け難く立派なものだと思います。新録音・旧録音確かにあれこれありますが、取りあえず新録音に統一しています。
・ヤッシャ・ハイフェッツ(国内盤・輸入盤)
・ナタン・ミルシテイン(国内盤・輸入盤)
・アルテュール・グリュミオー(国内盤・輸入盤):現在、国内盤はソナタとパルティータで分かれ、左のリンクはソナタです。
この中だと近年私が好んで聞くのはミルシテインかなぁということで写真も挙げておきましたが、自分でも根拠のわからない好みという程度です。
それにミルシテインを聴いたら、「そう言えば、あの人は・・・」とハイフェッツ、グリュミオー、シュムスキー、アッカルドなんだかんだと結局いろいろ聴くことも多いです。聴いたところで、譜面もないし、ヴァイオリンを触ったこともないので、「なんとなくこれはこっちかな〜、あれはあっちかな〜」と思うくらいであります!
判りやすい印象は、それぞれの演奏者の録音を他の曲で聴かれていれば、例えば、グリュミオーはなんとなく朗らかだという具合に、大体ご想像もつくかと思います。
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こう言ってる側からなんなのですが、それでもかなり毛並みの違うものがあって、ヴィルトゥオーゾ・タイプ(なんて言っていいか判りませんが)を持たれている方が「ちょっと別種のもの・・・」と探すならば、例えば、カール・ズスケ(国内盤・輸入盤)とスザンネ・ラウテンバッハーの録音。
勿論、最初の一枚としても第一級にお薦めできるものと思います!
この二つの録音はちょっと遅めのテンポで、素早く弾かれるところも大変新鮮に聴こえてきます。でも細かいところは、勿論、二人の間でいろいろ相違。
ズスケは弦楽四重奏を聴いていて親しみがありましたが、スザンネ・ラウテンバッハーは、たまたま「メンデルスゾーンのソナタなんてあったんだ?」と買ってみたら,かなり面白くてちょっと気になっていたヴァイオリニスト。
このメンデルスゾーンの録音に関しては、名高いミンツやヴェンゲーロフの良品よりもぜひ!といいやすい名盤ではないでしょうか?
名ヴァイオリニストの紹介本には名前も出てこず、気になっていながらすっかり忘れていたのですが、このブログにコメントを頂くkenさんの記事でバッハの無伴奏もあるんだ!と知って購入してみたものです。
・Ken:ラウテンバッハーさんをご存知ですか?
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・・・と書きながらラウテンバッハーの演奏を聴いていて、なんとなく思い出すのが先日コンサートのご報告をしたヒラリー・ハーン。その記事にちょっと触れました通り、1枚に収めた抜粋盤を出しています。
これが国内外で大変評価の高いもの。
自分も好きだったのですが、やはり記事に書いたように、コンサートで聴いたあのあまりに素晴らしい音!に対する私の印象とちょっと違うので、、、今となると、うーんと考えてしまいます。
ヴァイオリンは特に、コンサートで素晴らしい演奏を聴いた時の神韻に達するとでもいいたくなるような、あの最後のなにかがCDだとなくなっているようなことがあって、、、こんなことを心配していると「過去の名人なんてどうする?」とは思うのですが、あれはなんなのでしょう?
いずれにせよ実演を聴くのも大事だと再認識させられるコンサートでした。
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やたらめったらに、聴いた録音に触れるだけになってしまっていますが、大変好きな録音で、これも実演で聴いたらもっともっと「不思議ななにか」が聴こえたかも!?と私が特に感じている演奏家からあと二人ほど。
一つはオレク・カガンのものでアムステルダムでのライブ録音。カガンについても最近記事を書いて居ります。
・輸入盤マイナーレーベルで探すスヴャトスラフ・リヒテルの名盤 Part2 of 2 − ドイツ Live Classicsレーベル
この記事は一応リヒテルの記事なのですが、ほとんどカガンの紹介・・・
カガンの震える音は、実演聴くともっとずっと心ゆらされるものだったんじゃないかななどとよく考えます。実際私が一番CDに掛けるのはこの録音が一番多いかも知れません。
私は未聴ですが、Live Classicsからはパルティータ1番と2番のみを収めたものも出ています。
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さて・・・もうちょっとおつきあいください。残るもう一人のヴァイオリニスト・・・それはユーディー・メニューインです。
メニューイン神童当時のさまざまな絶賛を読むと、別に「子供がうまく弾いたから」とか、「子供にしては立派な解釈」などだけではなく、それこそ魂でも抜かれる様に聞き惚れてしまう音だったんじゃないかと思ってしまいます。
「天使の様な」なんて描写もあったかと思いますが、果たして単に大げさな表現だったのでしょうか?
メニューインも様々録音があって、EMIでも1930年代、50年代、70年代と3種類ありますが、写真は1930年代、10代後半の頃の録音です。
メニューインのバッハも抜粋を含めれば結構な数で、私はすべて聴いて居りませんが、実は一番好きなものというと、毎度ながらで恐縮ですが、モンサンジョンの『アート・オブ・ヴァイオリン』。
バッハに限らず、私が録音もののヴァイオリンを聴いた経験で、自分でも妙に思ったほど心にしみいるものでした。興奮ではなくて、ほんとうに心の琴線に触れるような。
あれはなんなのでしょう?バッハの名曲だから?それともメニューインの毅然とした姿?それともシルクスクリーンを掛けた映像の詐術?録音技術で私などに訴えやすい装飾をしているのでしょうか?
その魅力がなんなのか、自分でもわかりません。
すっかり、長くなってしまいました、また次回!
ラウテンバッハーは、60〜70年代に、
ビーバー「ロザリオのソナタ」、ロカテルリ「ヴァイオリンの技法」、
プフィッツナーとハルトマンのヴァイオリン協奏曲など、
数多くのマニアックな作品を録音してくれています。
バロックから現代音楽まで幅広いレパートリー、気骨のある演奏、
本当に素晴らしいヴァイオリニストだと思いますです。
200枚以上の録音があるそうですが、杯盤が多いのでしょうね。
(というかほとんどCD化されてない?)
ハルトマンもあったんですか!?おーー(と調べたら)Voxにあるある。プフィッツナーとカップリングなんだ・・・
Amazon.co.jpで検索する限り20-30品点くらいCD化されていて、みんな殆ど10年前のものでほぼ廃盤状態みたいです。
木曽のあばら屋さんのwebsiteにラウテンバッハーさんの頁ございませんでしたか?
Kenさんのブログ以外にも紹介されているのを見た記憶があって、頁のデザインが木曽のあばや屋さんのところに近かったような気がするのですが・・・googleで探してみたのですが、どうにも見当たりませんでした。。。
拙HPではまだラウテンバッハーはとりあげていません。
40年も前に、非常に先進的なレパートリーを次々に録音した
孤高の女流ヴァイオリニスト、というイメージですが、
あまりちゃんとしたことを知らないので・・・。
でもすごく興味を惹かれる人です。
まだ現役ですよね。
英語版には記事ありました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Susanne_Lautenbacher
1932年生まれの方なんですね、、、
さすがですね。ユリウス暦だったとは気が付きませんでした。
バッハはプロテスタントの人ですものね。
お礼ついでに、ここで一つトリビア(?)を。
あまり関係ないですけど、バッハが生まれたその日は、
イングランドではまだ「1684年」が続いていました。
いえいえ、どこかに書いてあっただけであります。
イングランドで1684年が続いていた・・・なぜでしょう???ジェームズIIやその前のチャールスIIと関係するのかしら・・・うーーん。
そのためグレゴリオ暦では1689年2月にあったウィリアム3世の即位を「1688年の革命」と覚えさせられていたような気がします・・・確かに当時のイングランドでは1688年だったのでしょうが。
・・・奥が深い!
私の恩師のひとりが、むかしラウテンバッハーさんと懇意だったのです。
すっごく練習の鬼で、時分にも日とにも厳しいオバハンだときいております。
で、その先生の世話で留学して彼女の弟子になろうとした子は・・・門前払いでした。当時はまだハートのある演奏が出来ない子だったからな。
旧南西ドイツ放送オケ(シュトゥットガルト)と協奏曲の共演が多かったはずなんですが、確かに音源はみつかりにくいですね。
それはそうと、メニューインの10代の無伴奏、いま、手に入るんですね! これは吉報だな。すぐには買えないですけれど。
彼の演奏がある意味でどこか虚脱に陥ったのは、第2次大戦の影響が大きかったと聞いております。すごくナイーヴな人だったと思います。いろんな番組で解説役に回る労は惜しまなかったし、著述も素晴らしいし、なにより戦後すぐの活動には目を見張るべきモラリストぶりを発揮しているのですが、10代のころに持っていた自分の輝きが失せたことは承知の上だったようです。
人間的に、非常に尊敬しています。
十代の録音はノイズ除去した数曲を持っていますが、無伴奏はなかった気がします。是非聞きたい。ハーンはいい意味でメニューインの精神を今体現している音楽家だと、こちらも尊敬しています。二人ともスケールが違うんですよね。
ハイフェッツの無伴奏が、意外や意外、とてもいい。ロマン派の曲が似合うこの人がバッハ、というのはダメなんじゃないか、と思っている人が多いのですが、全く逆で・・・19世紀にバッハが復活した理由を本当に実感させてくれる演奏は、ハイフェッツに尽きるかと思います。ミルシュテインは、さっぱり系ですが名人だなあ。
ズスケさん、良い音してるんですよね・・・ゲヴァントハウスのコンサートマスターで初めてみた時、身振りが踊るようなんでビックリしちゃいましたけど・・・ありゃ、へんなオッサン、って。でも、アンサンブル類は名演を録音していますよね。彼の無伴奏は気になっていながら聴いていませんが、期待を裏切らないんでしょうね。
長々失礼しました。
です!!kenさんのコメント読んだら、本文中でもっと誉めておけば良かったと思い直しました。
上にあげた録音は、ほんとどれかを聞くと、あれはこれはとしばらく無伴奏だけになってしまいます。
>彼の演奏がある意味でどこか虚脱に陥ったのは、第2次大戦の影響が大きかったと聞いております。
存じませんでした。興味深い話です。
>すごくナイーヴな人だったと思います。
いつも毅然として、かつ、慈愛のこもったコメントをするメニューインが、オイストラフのDVDでは、お友達的ぞんざいな感じで、なんだか不思議に思った記憶があります。