2008年03月25日

本日3月25日はベラ・バルトークの誕生日!− 今回は1/2で名著のご紹介ですっ

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アガサ・ファセット著『バルトーク晩年の悲劇 』の商品写真バルトーク(1881 - 1945)というと初めて聴いた頃から好きで、きっと好きだからこそ、メジャーで重要な音楽家だ!なんて思っている(単純な)私です。

そんな話を知人・友人とすると「わたしも!」という声も勿論あれば、「あんまり・・・」ですとか、「バルトーク聴く人はあまり居ないよ」という声もやっぱり耳にすることが多いです。「へーそうなんだー」と思う体験です(サンプリングの範囲が狭い!)。

このブログをお読みの好楽家の皆様には「そんなことはない!その人が知らないだけだ!」とお思いになられる方もあるやも知れません。

とは言え、べートーヴェンほど聴かれているとはさすがに言えないでしょうし、例えば「バッハ、モーツァルト、べートーヴェンが好き!」という方が毎月1枚ずつ大切に聴いて、時々コンサートに行ってという場合、10年経って「ベートーヴェンのピアノ・ソナタ、やっと聴き終えそう!」となるのかなとか・・・そんなこんなをざっくりと考えると、「バルトークは普通聴かないよ」とおっしゃる方の意見も、自分ではそんなに不思議にも思わず「へーそうなんだなー」と!

そうそう、わたしの友人の中に「何事も打楽器的な取り扱いをしている感じがして苦手」と言う者も居て、「そういうものばかりでもないよ!聴いてみようよ〜〜〜」と誘いながら、半面「まーそう感じてもしょうがないか・・・」などと思ったりもします。

私も単に素人の横好きで聴いているだけなので、音楽史上の意義がどうのこうのなど言える訳もなく、単にふと思い出してしまう曲がバルトークという程度の話です。

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・・・という次第で、バルトークが苦手だったり、バルトークは聴いてないなぁという方々にちょっと興味を持っていただけるきっかけになればいいかな・・・今回の記事の趣旨はそんなところです。二回に分けて、本日は書籍のご紹介です。

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バルトークの曲を聴くと、民謡採集の成果であろうリズムや音の変化にそれまで聴いたことのない独特な面白さを感じる方も多いかと思います。そして、それと同じくらいに、自然そのものの音とでもいうような何かを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

吉田秀和著『私の好きな曲』ちくま文庫の商品写真勿論、こういった印象は曲によって、あったりなかったり、強かったり弱かったりと異なるものですが・・・

自然を絵画的に描写したとも思わないのに、やっぱり、木々の葉が風に揺られて音を立てたり、深夜にかすかに虫が無く声がしたり、そんなイメージを私は感じます。もし自然を描写していたとしても、なんといいますか、森のまん中に一人ポツンと居るようなそんなイメージ?人間世界を忘れて、自然そのものにそのただ中で魅せられているかのような・・・

そういう印象を持ったのは、冒頭に写真を挙げたアガサ・フォセット著『バルトーク晩年の悲劇』の挿話を随分早い内に読んだからかも知れません。吉田秀和氏の名エッセイ集『私の好きな曲』にもその一挿話が長く引用されて居り、ご存知の方も多いやも知れません。

ちょっと寄り道致しますが、このエッセイ集は吉田氏の著作でも私が特に好きなものです。様々な作曲家から好きな一曲を取り上げて、作曲家の伝記的音楽的背景に自分の思い出話や感想を織り交ぜて紹介する、そのバランスが見事なもの。いろいろ聴きたいけれど、作曲家も多ければ、それぞれ作品も多すぎて・・・とお悩みの方には、ゆるやかに見当をつけるに良い書籍と思います。その誘いが見事で、全部聴きたい!と思ってしまうかも知れません。(私のこの記事もほとんどその影響下に書いて居ります。もうしみ込んでいのかも。)

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さて、『バルトーク晩年の悲劇』というタイトルはちょっと仰々しいですが、著者はアガサ・フォセットといって元々ハンガリー生まれでブダペスト音楽院に学んだ方です。彼女自身は1920年にアメリカに移りましたが、丁度20年後の1940年、第二次大戦から逃れて亡命して来たバルトーク夫妻と近しくなって、この著作が生まれました。

『悲劇』とあると、何か事件が起きて激しく物事が揺り動くような感をもたれるやも知れませんが、それは『悲劇』であったとしてももっと静かなもの。原題も THE NAKED FACE OF GENIUS - Béla Bartók's Last Years − 天才の素顔 - ベラ・バルトークの晩年− となっています。

バルトークが物故したのは1945年ですから、フォセットが見たのはたったの5年間のこと。しかし、彼女の記録は、バルトークの置かれた環境、行動、発言等々実に詳細な報告になっていて、バルトークの曲から得る作曲家像を見事に補完するような様々な事柄に溢れています。実際読み始めるとなかなか止め難い面白さ(?)です。

ニューヨークについた頃からバルトークの健康は本調子でなく、ライフ・ワークと捉えていた民謡研究の資料がちゃんとアメリカに届くかどうかが先ず不安。生活の見通しも不確かで、中古のピアノを手に入れるのも一苦労、その上、都会の騒音には悩まされ・・・新生活はそんな具合に始りますが、ファセットは知り合った直後から、バルトークの何か特別鋭敏な感性に気づきます。それは知識だけでなく、聴覚は勿論、触覚や臭覚にも関係するのが面白いところです。


「馬のにおいがするよ」
「馬ですって?(ニューヨークの)六六番街の真ん中なのに?」ディッタがこたえた。
「そうだ。馬にちがいない。」バルトークは言いながら、両側にピカピカの車が並んでいる道路を見回していたが、ついと横切って向こう側へ行った。
「ベラは、誰にも臭いも聞えもしないものを、いつも嗅ぎ出したり、聞き出したりするんですの。」ディッタが説明した。「不思議なんですけど、そんなことある筈もないようなときでも、いつもあの人のいう通りなの。」
バルトークが、大きな静まりかえったビルの入り口に消えていくのが見えた。

実際、そこは乗馬学校の厩舎であったのでした。鼻がいいというだけでなく、買い物最中に馬の臭いに探究心を発動させて、妻のディッタとフォセットを置いて歩き出してしまうのが実に面白いです。

こういった挿話はそこかしこにあって、吉田氏が『私の好きな曲』で引用しているのは田舎に引っ越した後、森に逃げ出してしまった飼い猫を探す場面。これなど、白眉ともいえるところでしょう。ぜひ実際に手に取ってお確かめになることをお薦め致します!

最後に私の好きな場面をもう一つ。これも田舎に引っ越した後の話ですが、やっぱり自然に近いとバルトークもどこかウキウキと調子を取り戻すようになる。

家に戻ると、彼の手やポケットはいつも途中で見つけてきたものでいっぱいで、私たちにそれを全部拡げて見せるのだ。それは彼が全く知らない一連の苔だったり、ある日手の甲にとまらせてきたてんとう虫のように彼にお馴染みのものであったりした。私たちがそれをほめると、彼は腕を、開け放った窓の外に伸ばした。
「この虫が完全なとび方で飛んで行く様子を見てごらん。そしてどれほどゆったりと幸せそうな羽音が聞えるか、聞いてごらん。いいかね。」彼の視線は、虫が去ってしまうまでずっとそれを追っているのだった。

*****

バルトークを知る本はたくさんありますが、本人に近いものでいうと、例えば『ある芸術家の人間像―バルトークの手紙と記録』。これはいま現在古書も手に入り難い様で残念です(わたしが買った時は二束三文とは言わずとも安かったはずですが・・・)。

この中にあるハンガリーの特色、各地の民族音楽、リストおよびジプシー音楽への考えなどは、『バルトーク音楽論集』(これまた古書でも随分高いですが・・・)でも知れるところ。

『ある芸術家の人間像―バルトークの手紙と記録』の面白さは、メニューインやシゲティらとの手紙でその交流の一端が知れるところでしょうか。『バルトーク音楽論集』は大半は民族音楽論文で私のような素人には歯が立たないものですが、その採集の必要性を訴える一文の他、ドビュッシーその他の音楽家に関する小論、はたまた当時発達しつつあったレコードに関する意見などなかなか面白いもので、これはまた来年の同じ機会にご紹介したいと思います。

拙文がバルトークの本を手に取るきっかけになれば幸いです。

明日は、バルトークの最後の作品で、私も大好きなピアノ協奏曲第3番で名盤をご紹介しようと思います!

ではまた次回。
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posted by sergejO at 14:40 | Comment(6) | TrackBack(0) | 作曲家の誕生日です!
この記事へのコメント
こんばんは。
バルトークは割りと聴いているのですが、一番最初に好んだのがミクロコスモスでした。
練習曲集でありますが、作品としても聴くべきものが多いですね。
最近は弦楽四重奏が一番多いですが。

バルトークの感覚の鋭さは作品からもうかがえますね。
昨年私も彼の伝記を読んでアメリカでのエピソードを知りました。
敏感ゆえに苦しむことも多かったようですね。
Posted by ピースうさぎ at 2008年03月25日 18:36
こんにちは!

郊外に引っ越してから、散歩もするようになって、血色もよくなったというところでは、読んでいてほっとしました。

ミクロコスモスも面白いですね。バルトーク夫人のディッタの録音があると少し前まで知らなくて、聴いてみたいなぁと思って居ります。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005A0J3/look4wieckcom-22/ref=nosim/


Posted by sergejo at 2008年03月25日 20:34
『バルトーク音楽論集』は、決して難解な本ではないですヨ。
むしろ、バルトークの原点を示しているので興味深い読み物で、彼の境涯を、ではなく、作品そのものをどう理解したいか、となると、『バルトーク晩年の悲劇』よりも大切な本だと思っております。
オスカーという人の「ミクロコスモスの世界」(全音)も、バルトークの音楽を解説した書籍の中では、平易にバルトークの音楽を教えてくれる、良い本だと思っております。
Posted by ken at 2008年03月26日 00:45
承知しました!読み直してみます。

大昔、「あっ譜面だ・・・」と読みとばして字のところだけ追った記憶がありまして、お恥ずかしい・・・

なお、拙文お読みの皆様へ
フランク・オスカー『バルトーク・ミクロコスモスの世界』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4116050814/look4wieckcom-22/ref=nosim/
Posted by sergejo at 2008年03月26日 01:20
バルトーク晩年の悲劇
アマゾンで
2千円で買いました。
この本のタイトル「悲劇」は
本の内容を狭めています。
こんな豊かで瑞々しい男の感受性を
文章にしたためた本を
「不幸」の色眼鏡で読むように
しむけられている。みすず書房さん、
ともあろう出版社が、なんてことを!
ともかく
母国にいた頃のようにはいかなかったけど
農夫の貧しい暮らしと同じくらい
ダウンサイジングした
まずしてなかで、つましいくらしのなかで
「管弦楽のための協奏曲」

「ピアノ協奏曲第三番」が
生まれた、
というかねアメリカの陰に
自意識を遮られた
からこそ
名曲が誕生した、それは確か、です、
ルーマニアンフォークダンス
とは
まるで別世界の
「ピアノ協奏曲第三番」

バルトーク流の「光」を求める叫び!
Posted by ゼロ at 2009年01月05日 22:41
コメント深謝申し上げます。「まずは売りたい!」という事情があるのでしょうが、内容と反するような、大仰なタイトルは、音楽書に関わらずあることで、私もなんだかな、、、と常々疑問に思うものです。
Posted by sergejO at 2009年01月05日 23:19
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