このブログでいままで取り上げたオーストリア・ドイツ圏の作曲家ですと、マックス・レーガーやフェルッチョ・ブゾーニとも同時代です。
プフィッツナーといいますと、ブルーノ・ワルターやワルター・ギーゼキングの激賞もあれば、フルトヴェングラーの賛否相半ばに揺れ動く感想などあちこちで耳にします。いずれにせよ、20世紀に入って様々に変化を始めた音楽の潮流に対して、ドイツのロマン主義を守るという立場を取ったということで、時代に遅れになってしまった保守派という感想を抱いてしまいますが、この時代のオーストリア・ドイツの諸状況を考えると簡単にそうも言えない中々面白い状況が見えて来ます。
その点、簡単にまとめた記事がありまして、以前も紹介しましたが、プフィッツナーの歌劇《クリスマスの妖精》の日本公演のweb上の記事に寄せられた
道下京子『プフィッツナーとロマン主義の悲劇』
を一度ご覧になられると概要はつかめるものかと思います。
第一次大戦の敗戦後のドイツの状況というものは、左右の政治闘争もあれば、経済はインフレーションで混乱。当然混乱の背後には国外勢力がうごめきます。いわゆる伝統的市民的文化も急激なマス社会化および外国文化の流入で実に大変な状況で、、、などというと、日本の戦後、ないしは昨今の姿も重なって参りますけれども(それ以上はここでは敢て触れませんが・・・)、プフィッツナーが何に対してどういう態度を取ったのか・・・これは事情を見ると、それはそれで判る気も致します。
ちょっと時代は下りますが、上のヴィスコンティの映画『地獄に堕ちた勇者ども』のなんとも言えないからっとしないイヤな雰囲気は理解の一助になるかも知れません(と前に誰かに聞いたような・・・)。
・・・と書きながら、音楽を聴くに当たって、社会状況を理解しないと今ひとつ楽しめない・・・となると、なかなか流行らないものだろうとは思いますが、、、
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さて、上にリンクした道下京子さんが、高橋 明子さんとの共著で『ドイツ音楽の一断面 プフィッツナーとジャズの時代』という書籍を出しています。これはプフィッツナーを知るだけでなく、この当時の他の作曲家の背景を知るにも良書ではないでしょうか?
書物は大きく分けて、前半がプフィッツナーの伝記および作品や思想の概観を描き、後半はジャズがいかにして当時のドイツに流入したかを説明。
目次を紹介致しますと、
- 第一部 プフィッツナーと「ドイツ精神」の悲劇 道下 京子著
- 第一章 ハンス・プフィッツナーの生涯と作品 p.20
- 第二章 二十世紀のロマン主義者 p.65
- 第三章 トーマス・マンとオペラ《パレストリーナ》をめぐって p.81
- 第四章 プフィッツナーとナチズム p.94
- 第五章 「ドイツ精神」について p.106
- むすび それでも《マイスタージンガー》は響く−大いなる過去の挽歌 p.127
- 第二部 ドイツにおけるジャズ−ワイマール共和国から第三帝国へ 高橋 明子著
- 第一章 ワイマール共和国におけるジャズ p.134
- 第二章 ドイツでジャズの洗礼を受けた作曲家たち p.146
- 第三章 ドイツの教育機関におけるジャズ p.188
- 第四章 ジャズと政治 p.201
- むすび p.212
となります。第一部に関しては、プフィッツナーの伝記や他の作曲家との論争などの紹介を通じて、二十世紀前半のドイツの諸事情が伺えます。
第二部も大変面白いもので、プフィッツナーに興味がなく場合、こちらだけ読まれても十分価値ありです。ジャズの流入を細かに取り上げていて、作曲家毎に個別にジャズの影響を説明した部分はヒンデミット、クルト・ヴァイル、クシェネク他の名曲・主要作品案内にも使えます。
それぞれ読まれる方によっていろいろ気になる部分もみつかるものでしょう。私などは、ドイツに限らず当時のクラシック界における”ジャズ”という言葉の意味が今ひとつ判らなかったのですが、そもそも、アメリカから入って来た音楽をジャズと総称していた節があるなどと読んで納得しました(よって、普通ならラテンとなるものもジャズとなったり)。
第二部 第三章のドイツの教育機関におけるジャズは、1928年フランクフルトの名門音楽学校 ホーホ音楽院のジャズ・クラス設立に関する一騒動を取り扱っていて、これは是非中身を読んでいただきたいなというものですが、ちらっと触れますと、ジャズには他のなにものでもなく、新しいリズムを求めていたこと、どうせ流入するのだからきちっと本場物のジャズを身につけるべきではないか、と考えていたことなど、中々面白く感じました。
第一部ではプフィッツナー(=個人)と政治、第二部ではジャズ(=大衆)と政治の関係が簡単に語られて、これは当時の歴史なり政治なりに興味があるかたなら様々考えることもあることでしょう。当時のドイツなので、ナチズムの問題となりますが、抽象化して行けば、時代を超え、左なり右の政治的表看板を超え、どこにでもでてくる構造がいろいろあるかと思います。
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さて、すっかり長くなっていますが、そんなプフィッツナーの名曲・・・というと、私も上の書籍でやっとどれを聞こうか見通しがついたというところ。初めの一枚を紹介するに、ヴァイオリンやピアノの協奏曲も主要作品とも言い難いでしょうし・・・
そういった次第で、名盤については「こんなものがありますよ!」程度のものになります。
そうそう、ヴァイオリン協奏曲は先日N響アワーで放送されて、「なんだこれは?これでロマン主義なの???」という印象でしたが、その後、ラウテンバッハーの録音やベルリン・フィルのタシュナーの録音を聴くと、随分違ったもので「あぁ、これならロマン主義」というものでした。
オペラは《パレストリーナ》が評判が高く、プフィッツナーの音楽思想・嗜好も如実に盛り込まれた信条告白ともなっており、そもそも全体もなかなか劇的で面白いものです。私も意外にも聴き入ってしまいました。クーベリック指揮の名盤は、歌手陣もニコライ・ゲッダやフィッシャー=ディースカウ他そうそうたる顔ぶれのものがありますが、これはいま手に入り難い様子。
国内盤がないのはともかく、私のように、輸入盤に英語対訳のパンフレットがないと困る方も多いでしょう。私も最初に買ったパレストリーナが、台本なしだったので、長い間なんの話だかわからないままでした、、、、
その点も踏まえて、クーベリック(これは当然対訳付き)が現在手に入りがたいので、スウィットナー指揮のものを挙げておきます。内容もきちっとして良い演奏と思います。
オペラに関しては調べてみると、出世作の《哀れなハインリッヒ》や、メルヒェン作品(らしいです。私は未聴です!)《クリスマスの妖精》、最後のオペラ作品で中々名作らしい《心》などは輸入盤ならいろいろでています。来年か、再来年には、こういうものも聴いて、どれがお薦めだと掛ければよいのですが・・・
プフィッツナーというと、指揮者としても活躍していた時期がありまして、そちらからなら入りたい、入りやすいという方もあろうかと思います。私も興味がありながらまだ聴いていないのですが、Naxosから何枚かリリースされているものが今現在手に入りやすい様子です。
プフィッツナー指揮 べートーヴェン交響曲第1番&第6番第1番 ベルリン国立歌劇場管弦楽団 1930年録音
第6番 ベルリン・フィル1928年
プフィッツナー指揮 べートーヴェン交響曲第3番&第8番第3番 ベルリン国立歌劇場管弦楽団 1929年録音
第8番 同上 1933年(録音年逆かも知れません)
べートーヴェン交響曲第2番&第4番第2番エーリヒ・クライバー指揮/ベルリン国立歌劇場管弦楽団 1929年録音
第4番 プフィッツナー指揮/同上 1928年
これらのCDは1920年代後半〜1930年のものであって、この当時のベルリン・フィルの演奏として興味深い方もあろうかと思います。
なお、EMIから自作自演CDあり。
Pfitzner Plays and Conducts曲目:歌劇《パレストリーナ》前奏曲、《クリスマスの妖精》序曲、他に歌曲等
ではまた次回!













